2026年09月11日 00:01
企業リストには売上高だけでなく従業員数も入っています。従業員が多いのに売上高が低い会社を探すと、人手で成り立っている業種が浮かびます。
従業員5,000人以上は109社。そのうち売上高が低いほうから並べると、こうなりました。
| 会社 | 売上高 | 従業員 | 1人当たり | 業種欄 |
|---|---|---|---|---|
| ピーアンドピー・キャリア | 146億円 | 5,695名 | 257万円 | サービス業 |
| コアズ | 200億円 | 6,400名 | 313万円 | サービス業 |
| ワン・ダイニング | 278億円 | 10,026名 | 278万円 | (数字が入っている) |
| エースコック | 359億円 | 6,729名 | 534万円 | 食料品 |
| いなば食品 | 409億円 | 5,800名 | 706万円 | 食料品 |
| 阪南理美容 | 413億円 | 5,000名 | 826万円 | サービス業 |
| 日本セレモニー | 413億円 | 5,283名 | 782万円 | サービス業 |
| ベルコ | 553億円 | 6,005名 | 920万円 | サービス業 |
人材派遣、警備、飲食、食品、理美容。人が動かないと成り立たない仕事が並びます。
引っかかったのは下の2社でした。日本セレモニー(山口県下関市)とベルコ(大阪府池田市)。業種の欄は「サービス業」としか書かれておらず、社名からも何をしているのか分かりません。
調べると、どちらも冠婚葬祭互助会でした。
まず数字を確かめます。
ベルコは売上高554億3,400万円(2026年3月期)に対して従業員6,005名。1人当たり約920万円。日本セレモニーは413億2,500万円(2026年1月期)で5,283名、1人当たり約782万円です。
これまでこのブログで調べてきた会社と並べると、桁が違います。
| 会社 | 1人当たり売上高 | 業種 |
|---|---|---|
| 正栄汽船 | 約5億5,900万円 | 船主 |
| カミ商事 | 約5億700万円 | 紙の卸 |
| ワークマン | 約4億円 | 作業服(FC) |
| マルコメ | 約1億1,546万円 | 味噌 |
| ベルコ | 約920万円 | 冠婚葬祭互助会 |
| 日本セレモニー | 約782万円 | 冠婚葬祭互助会 |
式を挙げるにも葬儀を出すにも、人が要ります。 会場があって、司会がいて、料理が出て、送迎がある。機械に置き換わらない仕事なので、売上に対して人が多くなる。ここまでは納得できました。
ただし、互助会だから1人当たりが低い、とは言えません。 同じ業種でもオークス(富山)は約2,090万円、平安レイサービス(神奈川)は約3,618万円で、大手2社とは3〜4倍違います。従業員の数え方が同じかどうかも確認できていません。ベルコについては、従業員の大半が個人請負契約であるとの報告があると記事に書かれています。
納得できなかったのは、なぜこの業種が「互助会」と呼ばれるのかでした。
調べると、これは名前だけの話ではありませんでした。
冠婚葬祭互助会の仕組み
サービスを受ける何年も前に、お金を払い込む商売です。ベルコの事業内容には「冠婚葬祭互助会(経済産業大臣許可第5006号)」と書かれています。許可番号が付く事業でした。
そして業界全体の数字を見て、手が止まりました。
2025年3月31日現在の数字です。
| 互助会の数 | 231社 |
| 前受金の合計 | 2兆3,814億円 |
| 加入契約数 | 2,095万件 |
2兆3,814億円が、まだ使われないまま預かられています。
この額は売上ではありません。預かり金です。今回調べた5社の売上高を全部足しても1,534億円ですから、業界の前受金はその15倍以上あります。企業リストに載っている「売上高」を眺めているだけでは、この業種の本体はまったく見えません。
加入契約2,095万件という数字も相当です。1世帯が複数口に入ることもあるので単純に割れませんが、日本の世帯数と比べて無視できる規模ではありません。
前払いで預かるという形は、そのまま論点になります。
サービスを受けるのは何十年も先かもしれません。そのあいだに会社が無くなったら、積み立てたお金はどうなるのか。1973年に互助会保証株式会社が作られ、前受金の保全が制度として用意されているのはそのためです。
解約についても争われてきました。2015年と2016年の最高裁判決により、解約手数料は「会報発行料と集金費用」「勧誘関連の人件費、会員管理費用」を超える分は取ってはならない、と判示されています。
加入するときの話ではなく、やめるときの話が最高裁まで行っている業種です。前払いで預かるという形が、そのまま争点になっています。
今回の5社の設立年を並べると、ある範囲に収まります。
セレマが1959年、ベルコと平安レイサービスが1969年、オークスが1971年、日本セレモニーが1972年。13年の幅に5社が入っています。
割賦販売法の対象になったのが1972年ですから、規制が入る前後に、いまも残っている会社が生まれていることになります。因果関係は分かりません。制度ができたから会社が増えたのか、会社が増えたから制度ができたのか、今回当たった資料では判断できませんでした。
このブログは、公的データから作った売上高10億円以上の企業リストを起点にしています。売上高という一本の物差しで1万2千社を並べられるのが、この道具の利点です。
ただ今回は、その物差しが業種の本体を映していませんでした。
互助会にとっての規模は、年間の売上高よりも預かっている前受金と加入契約数のほうに出ます。業界で2兆3,814億円、2,095万件。5社の売上合計1,534億円という数字からは、この大きさは出てきません。
前に調べたときは、企業リストの数字そのものが壊れている例を見つけました。今回は、数字は正しいのに、見るべきところが別にあるという話です。同じ「数字を疑う」でも、疑い方が違いました。
従業員が多くて売上が低い会社を探して見つけたのが、2兆円の前受金でした。入口に使った指標と、出てきたものが、まったく関係ありませんでした。
| 会社 | 所在地 | 売上高(億円) | 売上の出典 | 従業員 | 1人当たり(万円) | 創業 | 設立年代 | 主力 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ベルコ | 大阪府池田市 | 554.3 | 2026年3月期 | 6,005 | 923 | 1969 | 1960年代設立 | 冠婚葬祭互助会 |
| 日本セレモニー | 山口県下関市 | 413.3 | 2026年1月期 | 5,283 | 782 | 1972 | 1970年代設立 | 互助会・ホテル |
| セレマ | 京都市中京区 | 351.5 | 2025年7月期 | — | — | 1959 | 1950年代設立 | 冠婚葬祭互助会 |
| オークス | 富山市中島 | 108.9 | 2025年6月期 | 521 | 2,090 | 1971 | 1970年代設立 | 総合ライフサービス |
| 平安レイサービス | 神奈川県平塚市 | 106 | 2025年3月期・連結 | 293 | 3,618 | 1969 | 1960年代設立 | 冠婚・葬祭の施行 |
冠婚葬祭互助会の仕組み、割賦販売法における位置づけ(1972年・前払式特定取引業者・許可制)、互助会保証株式会社の設立(1973年)、2015年と2016年の最高裁判決、および231社・前受金2兆3,814億円・加入契約2,095万件(2025年3月31日現在)という業界の数字は、いずれも Wikipedia 日本語版「冠婚葬祭互助会」の記載に拠ります。業界団体や官庁の一次資料には当たっていません。
各社の売上高・従業員数・設立年・本社所在地も Wikipedia 日本語版に拠ります。
セレマは従業員数の記載が見つかりませんでした。 1人当たり売上高の図から除いています。
基準年がそろっていません。 ベルコは売上が2026年3月期で従業員が2020年、日本セレモニーは売上が2026年1月期で従業員が2020年1月です。1人当たり売上高はこのずれを含みます。
平安レイサービスは2026年5月8日に上場廃止となっており、それ以前は東証スタンダードに上場していました。企業リストの分類上は非上場に入りますが、他の4社とは経緯が異なります。なおこの会社は、企業リスト上の売上高の年次が2000年になっていますが、金額(106億円)は2025年3月期の連結決算と一致します。別の記事で書いた年次フィールドの誤りが、ここでも出ています。
ベルコについて、従業員の大半が個人請負契約であるとの報告があると記事に記載されています。この記事の1人当たり売上高は、そうした雇用形態の違いを区別せず、記載されている従業員数で割ったものです。同じ業種内で4倍近い開きがあるのは、この違いを含んでいる可能性があります。
冒頭の表(従業員5,000人以上を売上高の低い順)は、企業リストの値をそのまま集計したものです。 各社の数字は個別に取り直していないため、年次の誤りを含んでいる可能性があります。個別に確認したのは、記事で扱った互助会5社だけです。
設立年と制度化の時期が重なることについて、因果関係は確認していません。 本文に書いたとおりです。
5社は、公的オープンデータから作った企業リストから選んでいます。
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