日本のトイレットペーパーの36%は、丸富製紙のある富士市で作られている

  2026年08月30日 12:00

日本で使われるトイレットペーパーの36.1%が、静岡県富士市で作られています(2020年時点)。市内に製紙会社が49社、工場が59あります。

一方、紙・紙製品の出荷額が日本一なのは、愛媛県四国中央市です。18年連続で日本一。人口は75,677人(2026年8月推計)で、富士市の251,616人(2020年国勢調査)の3分の1以下しかありません。

「紙のまち」は2つあって、しかも作っているものが違います。公的なオープンデータで作った企業リストから、この2市を中心に非上場の紙関連8社を選んで調べました。

家庭紙・衛生用品産業用の紙卸・商社
02505007501,000ユニ・チャームプロダクツ/愛媛県四国中央市/売上高 1163億円(2014年3月期)ユニ・チャームプロダクツ1,163カミ商事/愛媛県四国中央市/売上高 1116億円(2023年6月期)カミ商事1,116丸富製紙/静岡県富士市/売上高 661億円(2024年3月期・連結)丸富製紙661リブドゥコーポレーション/愛媛県四国中央市/売上高 596.9億円(2026年3月期)リブドゥコーポレーション597丸住製紙/愛媛県四国中央市/売上高 491.2億円(2023年3月期)丸住製紙491興亜工業/静岡県富士市/売上高 317.3億円(2026年3月期)興亜工業317愛媛製紙/愛媛県四国中央市/売上高 283億円(2017年)愛媛製紙283四国紙販売/愛媛県四国中央市/売上高 202億円(2023年3月期)四国紙販売202億円
8社の売上高(億円)。決算期は社ごとに異なります。丸富製紙の661億円は連結、単体では413億円です。

同じ「紙のまち」でも、中身が違う

どちらも江戸時代中期からの和紙の産地です。四国中央市は宝暦年間(1751〜1764年)に宇摩地方の製紙業の基礎が築かれたとされ、自生する楮と豊かな水が背景にありました。富士市も江戸中期から和紙の産地で、明治以降に富士山の伏流水と富士川の水を使って洋紙の大量生産が始まっています。

出発点は似ていますが、いま作っているものは分かれました。

四国中央市富士市
人口75,677人(2026年8月推計)251,616人(2020年国勢調査)
紙・紙製品の出荷額全国1位(18年連続)全国2位(2018年時点)
特徴家庭紙・衛生用品のブランドと本社が集まるトイレットペーパー全国シェア36.1%(2020年)
製紙の事業所記載なし49社・59工場(2020年)

富士市に集中しているのがトイレットペーパーであることは、数字で確認できます(全国シェア36.1%、2020年)。ただしなぜトイレットペーパーなのかは、今回当たった資料では説明されていませんでした。単価が安くかさばる製品なので消費地に近いほうが有利、という説明は成り立ちそうですが、裏を取れていないので推測として置いておきます。

四国中央市のほうは、本社と登記上の本店が集まっているのが特徴です。

  • ユニ・チャーム(東証プライム上場)は、本社機能が東京都港区三田にありますが、登記上の本店は愛媛県四国中央市金生町下分182番地です
  • 大王製紙(東証プライム上場)は、四国本社が四国中央市三島紙屋町、東京本社が千代田区富士見
  • リブドゥコーポレーションは、四国本社が四国中央市金田町、大阪本社が大阪市中央区

東京や大阪に本社機能を移したあとも、登記上の本店や「四国本社」を四国中央市に残しています。

四国中央市という市名は、将来の道州制で州都または道庁所在地になるという構想を込めて採択されたものです。2004年の合併でできた市で、川之江市・伊予三島市・土居町・新宮村が一緒になっています。企業の住所に「川之江町」「三島宮川」「金生町」といった旧市町名が残っているのはそのためです。

富士市の「比奈」という地区

富士市側には、別の面白さがあります。

丸富製紙の本社は静岡県富士市比奈678。1955年創業で、トイレットペーパー・ティシュペーパー・タオルペーパーを作っています。売上高は連結661億円・単体413億円(2024年3月期)、従業員は合計223名。

興亜工業の本社は静岡県富士市比奈1286の2。1941年設立で、段ボールの中芯原紙・外装用ライナー・更紙を作っています。売上高317億3,400万円(2026年3月期)、従業員257名。

同じ「比奈」という地区に、家庭紙の会社と段ボール原紙の会社が並んでいます。 前に調べた瀬戸内の造船では今治市小浦町の同じ番地に3社が並んでいましたが、産地というのはこういう密度になるものらしい、というのが2件目で見えてきました。

卸のほうが、作る会社より1人当たりが大きい

家庭紙・衛生用品産業用の紙卸・商社
020,00040,000カミ商事/売上高 1116億円 ÷ 従業員 220名カミ商事50,727丸富製紙/売上高 661億円 ÷ 従業員 223名丸富製紙29,641四国紙販売/売上高 202億円 ÷ 従業員 85名四国紙販売23,765愛媛製紙/売上高 283億円 ÷ 従業員 214名愛媛製紙13,224興亜工業/売上高 317.3億円 ÷ 従業員 257名興亜工業12,346丸住製紙/売上高 491.2億円 ÷ 従業員 478名丸住製紙10,276ユニ・チャームプロダクツ/売上高 1163億円 ÷ 従業員 1,255名ユニ・チャームプロダクツ9,267リブドゥコーポレーション/売上高 596.9億円 ÷ 従業員 1,243名リブドゥコーポレーション4,802万円
従業員1人当たり売上高(万円)。売上高 ÷ 従業員数。売上と従業員の基準年がずれている社があります。丸富製紙は連結売上高を合計従業員数で割っています。

上位2社はカミ商事(約5億700万円)と丸富製紙(約2億9,600万円)、次いで四国紙販売(約2億3,700万円)です。カミ商事と四国紙販売は、どちらも卸・商社です。

逆に下位はリブドゥコーポレーション(約4,800万円)とユニ・チャームプロダクツ(約9,300万円)で、いずれも工場を持って製品を作る会社です。

紙を仕入れて売る商売は、在庫と与信の商売なので人が要りません。紙おむつを作る商売は、ラインを動かす人が要ります。同じ「紙の会社」でも、1人当たり売上高は10倍違います。 前に調べた菓子・食品メーカー11社では店舗を持つ会社と工場だけの会社で差が出ましたが、ここでは製造と流通で分かれました。

なお四国紙販売は、かつて大王製紙の子会社でした。2014年に大王製紙および連結子会社が保有株式を売却し、いまは連結対象から外れています。1999年設立、四国中央市具定町、売上高202億円(2023年3月期)、従業員85名。

四国中央市には、兄弟げんかの跡がある

四国中央市の紙産業を理解するには、井川家を辿ることになります。

大王製紙は1943年設立、創業者は井川伊勢吉。愛媛県宇摩郡三島村(現在の四国中央市)の出身で、1941年に設立した四国紙業が前身です。1988年に上場し、いまは東証プライム上場企業なので、この企業リストの対象外です。

問題はここから先です。

カミ商事は1948年、大王製紙の販売会社「井川商事」として設立されました。創業者は井川伊勢吉の弟・井川和一です。兄が作り、弟が売る体制でした。

ところが1978年、カミ商事が「エルモア」ブランドでティッシュペーパーに参入します。翌1979年、大王製紙が「エリエール」を発売しました。ここで両社の関係が悪化します。

井川家をめぐる出来事

  • 1941年 井川伊勢吉が四国紙業を設立(大王製紙の前身)
  • 1948年 弟の井川和一が井川商事を設立(現在のカミ商事)
  • 1978年 カミ商事がエルモアでティッシュペーパーに参入
  • 1979年 大王製紙がエリエールを発売。両社の関係が悪化
  • 1988年 大王製紙が上場
  • 2011年 大王製紙の会長 井川意高がカジノ賭博をめぐり連結子会社から巨額の融資を受け、9月に辞任
  • 2012年 井川一族が保有株式を北越紀州製紙へ譲渡

現在、カミ商事が大王製紙株の2.8%、愛媛製紙が3.2%を持っており、大王製紙の上位7〜8位の大株主です。別れた側が、いまも本家の株を持っています。

カミ商事の売上高は1,116億円(2023年6月期)、従業員220名。事業は紙・紙製品・パルプおよび製紙原料の卸売です。エルモアの製造は愛媛製紙が担っており、こちらは1953年設立(当初の社名は銅山川製紙)、売上高283億円(2017年)、従業員214名。段ボール原紙と家庭用薄葉紙を作っています。

2011年の事件で井川一族は大王製紙を離れました。しかし弟の側の会社は、いまも四国中央市で紙を売り続けています。

2025年、新聞用紙の会社が民事再生に入った

企業リストに、丸住製紙という会社が売上高491億1,600万円(2023年3月期)、従業員478名で載っています。1919年創業、四国中央市川之江町。四国中央市の製紙会社としては古い部類です。

しかしこの会社は、いま平常な状態にありません。

  • 2023年4月: 取引金融機関にリスケジュールを要請し、私的整理手続きに着手
  • 2025年2月28日: 東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請(負債総額約590億円)

主力製品を見ると、事情が読めます。丸住製紙の主力は新聞用紙で、洋紙が売上の7割を占めていました。新聞の発行部数が減り続けるなかで、新聞用紙に寄った会社が持ちこたえられなくなった、という筋が見えます。

ただしこれは推測です。 民事再生に至った理由は、原燃料価格やその他の要因も考えられ、一次資料で断定できるところまでは確認できていません。事実として言えるのは、主力が新聞用紙・洋紙であったこと、2023年に私的整理に着手し2025年に民事再生を申請したこと、この2点です。

企業リストの491億円という数字だけを見ると、この会社の状況は分かりません。 非上場企業を数字で見るときの限界がそのまま出ています。

冒頭に書いた「紙のまちは2つある」という話に戻ります。富士市はトイレットペーパーで全国の36.1%を占め、四国中央市は出荷額で18年連続日本一。どちらも産地として盤石に見えます。しかしその四国中央市で、1919年創業の会社が民事再生に入りました。

産地が強いことと、そこにいる一社が続くことは、別のことでした。企業リストの491億円という数字だけを見ていたら、この会社が何を経験しているかには一生気づけません。非上場企業を数字で見るときの限界が、いちばんはっきり出た一社です。

数字と出典

会社所在地売上高(億円)売上の出典従業員1人当たり(万円)創業区分主力
ユニ・チャームプロダクツ愛媛県四国中央市1,1632014年3月期1,2559,2672002家庭紙・衛生用品ベビー・生理用品
カミ商事愛媛県四国中央市1,1162023年6月期22050,7271962卸・商社紙の卸(エルモア)
丸富製紙静岡県富士市6612024年3月期・連結22329,6411955家庭紙・衛生用品トイレットペーパー
リブドゥコーポレーション愛媛県四国中央市596.92026年3月期1,2434,8021965家庭紙・衛生用品大人用紙おむつ
丸住製紙愛媛県四国中央市491.22023年3月期47810,2761919産業用の紙新聞用紙・洋紙
興亜工業静岡県富士市317.32026年3月期25712,3461941産業用の紙段ボール中芯原紙
愛媛製紙愛媛県四国中央市2832017年21413,2241953産業用の紙段ボール原紙・家庭紙
四国紙販売愛媛県四国中央市2022023年3月期8523,7651999卸・商社紙の商社

売上高・従業員数・設立年は各社の Wikipedia 日本語版の記載に拠ります。愛媛製紙の283億円は2017年、ユニ・チャームプロダクツの1,163億円は2014年3月期と古い数字しか公表されていない社があります。

四国中央市・富士市・大王製紙・丸住製紙・カミ商事に関する事実関係も Wikipedia 日本語版に拠ります。出荷額の順位は四国中央市が「18年連続日本一」、富士市が「2018年時点で全国第2位」という記載で、同じ年次で比較した数字ではありません。両市が同じ指標の同じ年で1位・2位であることを確認したわけではない点に注意してください。

ユニ・チャームの登記上の本店(四国中央市金生町下分182番地)と本社(東京都港区三田)、大王製紙の四国本社・東京本社、四国中央市の成立(2004年4月1日、伊予三島市・川之江市・土居町・新宮村の合併)、川之江駅・比奈駅の所在も Wikipedia 日本語版に拠ります。

「区分」は主力製品による分類で、公式の業種分類ではありません。愛媛製紙のように段ボール原紙と家庭紙の両方を作っている社もあります。

ユニ・チャームプロダクツはユニ・チャームの100%子会社で、独立企業ではありません。非上場企業リストには入りますが、性格が異なります。

丸住製紙の民事再生と新聞用紙の関係は、本文に書いたとおり推測です。事実として確認できたのは、主力が新聞用紙・洋紙であること、2023年4月に私的整理に着手し、2025年2月28日に民事再生法の適用を申請(負債総額約590億円)したことです。

8社は、公的オープンデータから作った「売上高10億円以上・非上場・本社が東京以外」4,722社の企業リストから選んでいます。

Share Me!