やずやも源吉兆庵も現存していた。古いのは数字ではなく日付のほうだった

  2026年09月10日 00:00

このブログでは、公的なオープンデータから作った企業リストを起点に記事を書いています。売上高10億円以上の会社11,953社。そのうち非上場かつ本社が東京以外の4,722社が主な対象です。

書きはじめて困ったことがあります。記事を書くたびに、もう存在しない会社に当たる。

ここまでの記事で当たった、リストに載っているが実在しない会社

  • 幸陽船渠(670億円)― 2014年2月に今治造船へ吸収合併され、今治造船広島工場になっていた
  • 有村産業(63億円)― 2010年12月に清算結了し、法人格が消滅していた
  • 丸住製紙(491億円)― 消滅はしていないが、2025年2月に民事再生法の適用を申請していた

3本の記事で3社です。このリストには、いったいどれだけ混じっているのか。 数えてみることにしました。

「古い数字」を手がかりにした

全4,722社を一社ずつ確認するのは無理なので、当たりをつけます。

企業リストの売上高には年次が入っています。年次が古いまま残っている会社は、更新されていない=もう動きがない会社ではないか。 そう考えて数えました。

売上高が入っている4,504社のうち、年次が2012年以前のものが695社。15.4%ありました。年次が空欄のものも601件あります。

この695社から、社名の五十音順に等間隔で12社を抜きました。恣意的に選ばないためと、あとから同じ標本を再現できるようにするためです。抽出間隔は57社に1社。

そして12社を、公式サイトと Wikipedia 日本語版で一社ずつ確かめました。

消えていたのは2社だけだった

結果は、予想とかなり違いました。

判定社数
存続していた9社
消滅していた2社
判定できなかった1社

消えていたのはこの2社です。

青森罐詰(青森市港町、1941年設立、34億2,500万円)は、2004年にマルハの完全子会社となり、2010年4月1日に「マルハニチロ北日本」へ統合されて解散していました。事業自体は同社の青森工場として続いています。

しんわディーシーカード(長崎県佐世保市、1988年設立、140億円)は、2010年7月1日に株式会社FFGカードへ吸収合併されていました。

どちらも2010年です。データの年次(2003年・2005年)から見て、消えたのはその5〜7年後でした。

残る9社は、いまも動いていました。とりせん(群馬県館林市のスーパー)も、やずや(福岡の健康食品通販)も、大須ういろ(名古屋)も、京成不動産も、昭和精機(ブラザー工業の子会社)も、健在です。キクテック(名古屋の道路標識メーカー)に至っては、Wikipedia の記事が2025年11月まで更新されていました。

判定できなかった1社はMon cher(堂島ロールの会社)で、記事の記載が2018年で止まっており、解散や合併の記載もありませんでした。

15.4%が古い数字、という想定に対して、実際に消えていたのは16.7%(2/12)。 母数12なので誤差は大きいものの、「古い数字=亡霊」という見立てほどではありませんでした。

存続していた消滅していた判定できず
190019251950197520002025伊豆箱根鉄道/1916年/鉄道・バス伊豆箱根鉄道青森罐詰/1941年/缶詰青森罐詰とりせん/1948年/スーパーマーケットとりせん大須ういろ/1949年/ういろ・きしめん大須ういろ昭和精機/1950年/情報機器・産業機器昭和精機東洋ガラス機械/1959年/瓶容器製造機東洋ガラス機械キクテック/1963年/道路標識・道路標示キクテック京成不動産/1971年/不動産京成不動産やずや/1977年/健康食品の通信販売やずや源吉兆庵/1977年/和菓子源吉兆庵しんわディーシーカード/1988年/クレジットカードしんわディーシーカードMon cher/2003年/堂島ロールMon cher
標本12社の設立年。1916年の伊豆箱根鉄道から2003年のMon cherまで。消滅していた2社(青森罐詰・しんわディーシーカード)に、設立年の偏りは見られません。

確かめている途中で、手が止まった

9社が存続していたこと自体は、まあそういうこともあるかと思いました。

引っかかったのは、数字のほうです。

とりせんは、企業リストに「100,853,000,000円・2003年」と入っていました。ところが確認すると、いまの売上高は1,008億5,300万円(2026年2月期)。

伊豆箱根鉄道は「10,546,382,000円・2000年」。実際は連結105億4,638万2,000円(2026年3月期)。

もう一度並べます。

会社データの金額データの年次実際の決算
とりせん100,853,000,000円20031008億5300万円(2026年2月期)
伊豆箱根鉄道10,546,382,000円2000連結105億4638万2000円(2026年3月期)

円単位まで一致しています。

23年前の数字が偶然いまと同額になることは、ありません。これは金額のほうは最新で、年次だけが古いということです。

残る10社のうち9社は、金額も年次も一致していました。青森罐詰の34億2,500万円は本当に2003年3月の数字で、大須ういろの10億8,900万円は2010年の数字です。

つまり、年次のフィールドは、当たっているものと壊れているものが混ざっている。

そして最後の1社では、また違う壊れ方をしていました。

分社した会社の、片方の数字が付いていた

源吉兆庵です。企業リストには「株式会社源吉兆庵・岡山県・290億円・2010年」と入っています。

確認すると、この会社は2009年に製造部門と販売部門に分社していました。

法人所在地設立
株式会社源吉兆庵岡山市北区幸町1977年6月
株式会社宗家源吉兆庵東京都中央区銀座2009年1月(販売部門として分社)

そして290億円(2010年度)は、東京の「宗家源吉兆庵」の個別売上でした。岡山の「源吉兆庵」の数字ではありません。ちなみにグループの連結売上は370億円(2023年実績)です。

社名がほぼ同じで、所在地が違い、片方の数字がもう片方に付いている。 これは年次の問題でも消滅の問題でもなく、3つ目の壊れ方でした。

前に酒の記事で、新潟の朝日酒造に鹿児島の朝日酒造が紐づいていた例を書きました。あれは同名の別会社の取り違えでしたが、こちらは同じグループが分社した結果です。原因は違いますが、外から見た症状は同じです。

数えていたのは、会社の死ではなかった

最初の前提に戻ります。

私は「年次が古い=数字が古い=会社が動いていない」と考えて、695社という母集団を作りました。この鎖の最初の輪が切れていました。年次が古くても、金額は最新かもしれない。

695社という数字は、会社の死を数えたものではありません。日付フィールドの壊れ方を数えたものでした。

厄介なのは、壊れ方が一様ではないことです。12社のうち9社は年次も金額も正しく、2社は金額だけ最新、1社は別法人の数字。外から見分ける方法がありません。とりせんの1,008億円が2003年の数字なのか2026年の数字なのかは、とりせんを調べるまで分からない。

これは企業リストの作り方に起因します。作り方の説明にも書いていますが、このリストは Wikipedia日本語版のダンプから企業 infobox を39,618件抽出しています。infobox の売上高と年次は別々の記述なので、片方だけが更新されている記事があれば、そのまま取り込まれます。

こう書くとリストが使い物にならないように読めますが、そうではありません。当たりをつける道具としては機能しています。 このリストが無ければ、今治造船と正栄汽船と檜垣産業が同じ番地にあることにも、沖縄の社名の35.5%が「沖縄」「琉球」で始まることにも気づけませんでした。1万2千社を横断して眺められること自体に価値があります。

壊れているのは個々の値のほうで、全体の形ではない。 だから集計には使えて、個社の数字はそのまま書けない。記事を書くときに一社ずつ当たり直しているのは、この区別のためです。

そして今回いちばん効いたのは、自分が立てた前提を数えて確かめたことでした。「15.4%が古い数字」と書いて終わっていたら、それは嘘でした。12社を調べるのに半日かかりましたが、調べなければこの記事は、もっともらしい嘘になっていたはずです。

数字と出典

会社所在地売上高(億円)売上の出典従業員1人当たり(万円)創業確認結果主力
とりせん群馬県館林市1,008.5データ上は2003年——1948存続していたスーパーマーケット
やずや福岡市南区3452009年3月期——1977存続していた健康食品の通信販売
源吉兆庵岡山市北区2902010年度(別法人の数字)——1977存続していた和菓子
しんわディーシーカード長崎県佐世保市1402005年度——1988消滅していたクレジットカード
キクテック名古屋市南区1092009年度——1963存続していた道路標識・道路標示
伊豆箱根鉄道静岡県三島市105.5データ上は2000年1,1958831916存続していた鉄道・バス
昭和精機名古屋市瑞穂区652010年度917,1431950存続していた情報機器・産業機器
Mon cher大阪市北区402009年8月——2003判定できず堂島ロール
青森罐詰青森市港町34.32003年3月——1941消滅していた缶詰
東洋ガラス機械横浜市鶴見区332012年3月期——1959存続していた瓶容器製造機
京成不動産千葉県鎌ケ谷市132012年3月期——1971存続していた不動産
大須ういろ名古屋市緑区10.92010年——1949存続していたういろ・きしめん

標本の抽出方法。企業リストのうち「非上場・本社が東京以外・売上高の数値あり」の4,504社から、売上高の年次が2012年以前の695社を母集団としました。これを社名の五十音順に並べ、57社おきに12社を取っています。乱数を使っていないのは、同じ手順で同じ標本を再現できるようにするためです。

母数が12社しかありません。 消滅2社という結果は、率でいえば16.7%ですが、1社増減するだけで8.3ポイント動きます。この記事の数字を「リスト全体の消滅率」として読まないでください。

各社の現存確認・設立年・売上高は Wikipedia 日本語版の記載に拠ります。Wikipedia に解散の記載がないことは、存続の証明ではありません。 Mon cher を「判定できず」としているのはそのためですが、他の8社についても厳密には同じ限界があります。公式サイトが現存し、記事が近年まで更新されている社は「存続」としました。

表の「データ上は2003年」「データ上は2000年」は、企業リストに入っている年次をそのまま示したものです。本文に書いたとおり、この2社については金額のほうが最新の決算と一致しており、年次が誤っていると考えられます。

源吉兆庵の290億円は、同じ表に載せてはいますが岡山の法人の数字ではありません。 東京の「宗家源吉兆庵」の個別売上(2010年度)です。企業リスト側が岡山の法人に紐づけているため、そのまま示したうえで注記しています。

12社は、公的オープンデータから作った企業リストから選んでいます。

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