2026年09月07日 00:00
企業リストで酒の会社を売上高順に並べたとき、1位に来たのは灘でも伏見でもありませんでした。
霧島酒造。宮崎県都城市。売上高593億8,400万円。
2位が白鶴酒造で273億円。灘五郷の御影郷にある、1743年創業の酒蔵です。
焼酎の会社が、灘の酒蔵の2倍以上ありました。
日本酒より焼酎のほうが大きいのか。それとも九州の会社が特別なのか。とりあえず上位8社を並べ、創業年を横に足してみました。
すると、妙なことになりました。
| 会社 | 創業 | 売上高 |
|---|---|---|
| 剣菱酒造(兵庫・神戸) | 1505年 | 20.3億円 |
| 菊正宗酒造(兵庫・神戸) | 1659年 | 98億円 |
| 白鶴酒造(兵庫・神戸) | 1743年 | 273億円 |
| 朝日酒造(新潟・長岡) | 1830年 | 80.1億円 |
| 二階堂酒造(大分・日出町) | 1866年 | 151億円 |
| 霧島酒造(宮崎・都城) | 1916年 | 593.8億円 |
| 薩摩酒造(鹿児島・枕崎) | 1936年 | 72億円 |
| 三和酒類(大分・宇佐) | 1958年 | 255.2億円 |
古いほど大きいわけでも、新しいほど大きいわけでもありません。
いちばん古い剣菱酒造が、いちばん小さい。ルーツとされる稲寺屋が伊丹で創業したのが1505年です。500年以上前です。それが20億3,000万円。社員55人と、蔵人が約90人。晩秋から仕込み、春先から秋まで寝かせる「寒造り」を続けている会社です。
一方、いちばん新しい三和酒類が3位。何の順番なのか分かりませんでした。
もう一列、足してみました。その会社の主力商品が、いつ出たかです。
| 会社 | 創業 | 主力商品の発売 | 売上高 |
|---|---|---|---|
| 霧島酒造 | 1916年 | 黒霧島 1999年 | 593.8億円 |
| 白鶴酒造 | 1743年 | — | 273億円 |
| 三和酒類 | 1958年 | いいちこ 1979年 | 255.2億円 |
| 二階堂酒造 | 1866年 | 麦100%の焼酎 1974年 | 151億円 |
| 菊正宗酒造 | 1659年 | — | 98億円 |
| 朝日酒造 | 1830年 | 久保田 1985年 | 80.1億円 |
| 薩摩酒造 | 1936年 | さつま白波(1970年代後半に全国認知) | 72億円 |
| 剣菱酒造 | 1505年 | — | 20.3億円 |
上位3社の主力商品は、いずれも1970年代以降に生まれたものでした。
霧島酒造の黒霧島は1999年5月発売。この会社が焼酎業界で初めて首位に立ったのは2012年で、以降ずっと1位を保っています。1916年創業の会社ですが、いまの規模になったのはこの20〜30年のことです。
三和酒類の「いいちこ」は1979年2月発売。「下町のナポレオン」というキャッチで知られた麦焼酎です。そもそもこの会社自体が新しく、1972年10月に赤松本家酒造・熊埜御堂酒造場・和田酒造場・西酒造場の4つが企業合同してできています。
二階堂酒造は1866年創業と古いのですが、麦100%の麦焼酎を開発したのが1973年、発売が1974年です。
つまり、こういうことでした。
この業界の会社の大きさは、蔵の古さではなく、いつヒット商品を出したかで決まっている。
言われてみれば当たり前かもしれません。ただ、私は酒の会社については「老舗ほど強い」と漠然と思っていました。創業年の列を眺めて何も見えなかったとき、その思い込みに気づきました。
灘の3社の住所を見ていて、既視感がありました。
菊正宗と剣菱が同じ町名です。白鶴の住所は住吉南町ですが、3社とも灘五郷のうち「御影郷」に属します。
これで3回目でした。今治市小浦町に今治造船・正栄汽船・檜垣産業。富士市比奈に丸富製紙と興亜工業。そして御影本町に菊正宗と剣菱。
産地というのは、思っているよりずっと狭い範囲に固まっています。 県単位でも市単位でもなく、町名の単位で密集している。企業リストを住所で眺めるようになってから、これに何度も出会うようになりました。
| 会社 | 所在地 | 売上高(億円) | 売上の出典 | 従業員 | 1人当たり(万円) | 創業 | 種類 | 主力 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 霧島酒造 | 宮崎県都城市 | 593.8 | 2023年3月期 | 583 | 10,185 | 1916 | 焼酎 | 黒霧島(1999年) |
| 白鶴酒造 | 兵庫県神戸市 | 273 | 2022年3月期 | 391 | 6,982 | 1743 | 日本酒 | 灘の日本酒 |
| 三和酒類 | 大分県宇佐市 | 255.2 | 2025年7月期 | 361 | 7,069 | 1958 | 焼酎 | いいちこ(1979年) |
| 二階堂酒造 | 大分県日出町 | 151 | 2023年 | — | — | 1866 | 焼酎 | 大分むぎ焼酎(1974年) |
| 菊正宗酒造 | 兵庫県神戸市 | 98 | 2023年3月期 | — | — | 1659 | 日本酒 | 灘の日本酒 |
| 朝日酒造 | 新潟県長岡市 | 80.1 | 2024年9月期 | 181 | 4,425 | 1830 | 日本酒 | 久保田(1985年) |
| 薩摩酒造 | 鹿児島県枕崎市 | 72 | 2024年6月期 | 214 | 3,364 | 1936 | 焼酎 | さつま白波 |
| 剣菱酒造 | 兵庫県神戸市 | 20.3 | 2022年3月期 | 55 | 3,691 | 1505 | 日本酒 | 剣菱 |
各社の売上高・従業員数・創業年・主力商品の発売年、霧島酒造が2012年に業界首位となったこと、三和酒類の企業合同、剣菱酒造のルーツと寒造りは、いずれも Wikipedia 日本語版の記載に拠ります。
剣菱酒造には創業年の明記がありません。 ルーツとされる稲寺屋が1505年に伊丹で創業したという記述から、年表では1505年を採りました。現在地への移転は1929年です。他社の「創業年」と同じ基準ではないことに注意してください。
三和酒類の1958年は会社の設立年で、企業合同は1972年10月です。年表の基準がここでも揃っていません。
薩摩酒造の「さつま白波」は発売年の記載がなく、1970年代後半に全国的な認知を得たという記述のみでした。表の記載もそれに合わせています。
白鶴酒造・菊正宗酒造・剣菱酒造には、主力商品の発売年という概念が当てはまりません。 表の「—」はそのためで、商品が無いという意味ではありません。日本酒と焼酎を同じ枠で比較していることには無理があります。この記事が言えるのは「売上上位の焼酎メーカーは主力商品が新しい」までで、日本酒の会社が新商品を出していないという意味ではありません。
菊正宗酒造と二階堂酒造は従業員数の記載が見つからず、表では「—」としています。
京都・伏見の蔵は、企業リストに1社も入っていません。 月桂冠などの名前は見当たらず、京都府で酒に関わる会社としてリストにあるのは上場企業の宝ホールディングスだけでした。冒頭で「灘でも伏見でもなかった」と書きましたが、そもそも伏見の蔵はこのリストに載っていないため、伏見と比較したわけではありません。売上高が10億円を超えていてもリストに入らない会社があることは、企業リストの限界としてそちらにも書いています。
朝日酒造と菊水酒造は、企業リスト側で同名の別会社に紐づいていました。「朝日酒造 (鹿児島県)」と「菊水酒造 (高知県)」です。この記事の数字は新潟県の両社で取り直しています。突き合わせは法人番号→証券コード→正規化した社名の順で行っており、社名一致は同名の別会社を吸収しきれません(企業リスト)。
8社は、公的オープンデータから作った「売上高10億円以上・非上場・本社が東京以外」4,722社の企業リストから選んでいます。
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