2026年08月31日 09:00
企業リストを業種で陸運業に絞り、売上高順に眺めていたときのことです。このリストは既定で「非上場かつ本社が東京以外」に絞られています。
1位は佐川急便。その次が遠州鉄道で、連結売上高2,331億円でした。
私鉄です。それも大手ではなく、静岡県浜松市の会社です。それがこの額かと思って路線を調べたら、西鹿島線が1本、17.8kmでした。
新浜松駅から西鹿島駅まで。17.8キロの1路線だけです。
内訳を見て、納得しました。この会社の事業はこうなっています。
遠州鉄道の事業
百貨店とスーパーと自動車販売とガソリンスタンドと保険と介護と自動車学校をやっている会社が、ついでに17.8kmの電車を走らせている。そう言ったほうが実態に近い並びです。
連結2,331億円に対して、遠州鉄道単体の売上高は449億円でした。5分の1以下です。
同じ静岡県の静岡鉄道を見ると、もっと極端でした。路線は静岡清水線の11.0km。連結1,902億円に対して、単体は202億円。連結の約1割しかありません。
他の地方私鉄も同じなのか、調べてみました。
| 会社 | 連結売上高 | 単体売上高 | 単体の割合 |
|---|---|---|---|
| 遠州鉄道(静岡・浜松) | 2,331.7億円 | 449.4億円 | 19.3% |
| 静岡鉄道(静岡・静岡) | 1,902.3億円 | 202.1億円 | 10.6% |
| 伊予鉄グループ(愛媛・松山) | 347.5億円 | 31.8億円 | 9.2% |
| 越後交通(新潟・長岡) | 211.1億円 | 53.6億円 | 25.4% |
| 長野電鉄(長野・長野) | 194.9億円 | 46.5億円 | 23.9% |
どこも同じでした。 本体は連結の1〜2割で、残りはグループ会社が稼いでいます。
では残りの8割は何なのか。グループ会社を一社ずつ見ていきました。
百貨店。スーパー。バス。タクシー。ホテル。不動産。ここまでは沿線の商売なので、分かります。
引っかかったのは、この3つでした。
| 私鉄 | グループにある自動車ディーラー |
|---|---|
| 遠州鉄道 | 静岡トヨタ自動車 |
| 静岡鉄道 | トヨタユナイテッド静岡 |
| 越後交通 | ネッツトヨタ越後 |
自動車ディーラーです。
鉄道会社が、車を売っている。しかも片手間ではなく、遠州鉄道では「モビリティサービス事業」として石油販売と並ぶ主要セグメントになっています。
地方で電車に乗らなくなる最大の理由は、車です。その車を、電車の会社が売っている。
静岡県で車を買うと、その店は私鉄の会社かもしれない。
これをどう読むか。「客を奪う商品を自分で売る」と書くと矛盾に聞こえますが、順番が逆なのだと思います。車が売れる地域だから電車が続かない。だから電車以外で稼いで、電車を残している。
ただし、これは私の解釈です。各社が「鉄道を維持するために多角化した」と説明している資料に当たったわけではありません。事実として確認できるのは、単体売上が連結の1〜2割であることと、グループに自動車ディーラーがあることの2つだけです。
越後交通(新潟県長岡市)には、鉄道がありません。鉄道事業は1995年3月31日に廃止されています。
それでも社名は越後交通のままで、連結211億円の会社として続いています。事業は旅客運送(バス)、旅行業、不動産。グループにはネッツトヨタ越後があります。
この会社にはもう一つ、名前の残り方があります。田中角栄が1950年10月に長岡鉄道の社長に就任しているのです。越後交通の前身にあたる会社です。初代社長の田中勇は角栄の後援会長を務めた人物で、血縁ではありません。
鉄道が無くなったあとも会社は残り、社名も残り、人の名前も記録に残っている。
もう1社。一畑電気鉄道(島根県松江市)です。
連結136億円で、今回調べたなかで最も小さい会社です。ただし従業員は連結783人に対して単独52人。実質的な持株会社で、鉄道は子会社の一畑電車が運行しています。グループには一畑バス、一畑百貨店、ホテル一畑があります。
この「一畑」が何なのかを調べて、思わず声が出ました。
出雲市にある一畑寺(一畑薬師)への参詣者を運ぶ鉄道、という計画から始まった会社でした。社名はそこから来ています。設立は1912年です。
そして現在、一畑寺がこの会社の主要株主(1.70%)として名前を連ねています。
100年以上前に「寺に参る人を運ぶ」ために作られた鉄道が、いまも走っていて、寺がその会社の株を持っている。
企業リストの中で、これがいちばん時間の長さを感じた会社でした。
地方に行くと、駅前の百貨店とバスと電車が同じ名前だったりします。あれは看板を貸しているのではなく、本当に同じ会社のものです。駅前の景色のかなりの部分が、17.8kmや11.0kmの電車を持っている会社のものです。
そしてその車も、同じ会社が売っています。
| 会社 | 所在地 | 売上高(億円) | 売上の出典 | 従業員 | 1人当たり(万円) | 創業 | 鉄道の持ち方 | 主力 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 遠州鉄道 | 静岡県浜松市 | 2,331.7 | 2026年3月期・連結 | 5,620 | 4,149 | 1943 | 自社で鉄道を運行 | 西鹿島線 17.8km |
| 静岡鉄道 | 静岡県静岡市 | 1,902.3 | 2026年3月期・連結 | 4,413 | 4,311 | 1919 | 自社で鉄道を運行 | 静岡清水線 11.0km |
| 両備ホールディングス | 岡山県岡山市 | 352.7 | 2026年3月期・連結 | 2,430 | 1,451 | 1910 | 持株会社(鉄道は子会社) | 岡山電気軌道(路面電車) |
| 伊予鉄グループ | 愛媛県松山市 | 347.5 | 2026年3月期・連結 | 1,871 | 1,857 | 1942 | 持株会社(鉄道は子会社) | 伊予鉄道・松山市内電車 |
| 越後交通 | 新潟県長岡市 | 211.1 | 2023年3月期・連結 | 731 | 2,888 | 1960 | 鉄道事業なし | 鉄道は1995年に廃止 |
| 長野電鉄 | 長野県長野市 | 194.9 | 2026年3月期・連結 | 841 | 2,317 | 1920 | 自社で鉄道を運行 | 長野線(長野〜湯田中) |
| 一畑電気鉄道 | 島根県松江市 | 136.5 | 2023年3月期・連結 | 783 | 1,743 | 1912 | 持株会社(鉄道は子会社) | 一畑電車 |
各社の売上高・従業員数・設立年・事業内容・グループ会社、越後交通の鉄道事業廃止(1995年3月31日)と田中角栄の社長就任(1950年10月)、一畑電気鉄道の社名の由来と一畑寺の持株比率(1.70%)は、いずれも Wikipedia 日本語版の記載に拠ります。
「鉄道を維持するために多角化した」というのは私の解釈で、各社がそう説明している資料に当たったわけではありません。本文に書いたとおり、確認できるのは単体売上が連結の1〜2割であることと、グループに自動車ディーラーがあることの2点です。
伊予鉄グループの設立年1942年は、現在の法人としての設立年です。伊予鉄道そのものの歴史はこれより古く、記事の年表もこの点で会社ごとに基準が揃っていません。
両備ホールディングスと一畑電気鉄道は、単体売上高を確認できませんでした(一畑電気鉄道は単独の従業員52人という記載のみ)。表の「単体の割合」に両社が入っていないのはそのためです。
越後交通と一畑電気鉄道の数字は2023年3月期で、他社より3年古いものです。
7社は、公的オープンデータから作った「売上高10億円以上・非上場・本社が東京以外」4,722社の企業リストから選んでいます。大阪市高速電気軌道・阪急電鉄・近畿日本鉄道・京阪電気鉄道・相模鉄道もこのリストに入りますが、いずれも大都市圏の大手私鉄か公営由来の会社なので、今回は外しました。
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