バンテリンの会社は、もとは1894年の繊維問屋だった

  2026年09月25日 00:01

企業リストで卸売業を引くと、非上場で本社が東京にない会社が271社ありました。県別では大阪府55社、愛知県46社と続きます。

愛知の上位を見ていくと、繊維の商社が並んでいました。そして1位が興和です。

興和と言われて浮かぶのは、キャベジンコーワ、コルゲンコーワ、バンテリンコーワでしょう。薬の会社です。ところが創業を読むと、1894年(明治27年)に「服部兼三郎商店」という繊維問屋として始まっています。

4社とも、江戸から明治の繊維商

愛知の繊維商社を並べると、こうなりました。

名古屋・錦一宮
165017001750180018501900モリリン/1662年/森林右衛門商店。原糸・衣料・産業資材モリリン豊島/1841年/綿屋半七。綿花の仲買から豊島瀧定名古屋/1864年/2001年に瀧定を会社分割瀧定名古屋興和/1894年/服部兼三郎商店。いまはキャベジン・バンテリン興和
愛知の繊維商社4社の創業年。4社とも非上場です。
  • モリリン … 1662年(寛文2年)創業。社名は当時の「森林右衛門商店」から
  • 豊島 … 1841年(天保12年)、初代・豊島半七が「綿屋半七」の屋号で綿花の仲買を始める
  • 瀧定名古屋 … 1864年(元治元年)創業
  • 興和 … 1894年(明治27年)、服部兼三郎商店として繊維問屋を創業

いちばん新しい興和で132年前、いちばん古いモリリンは364年前です。江戸時代の寛文2年といえば、四代将軍・徳川家綱の時代になります。

住所が2ヶ所に割れている

4社の所在地を見ると、きれいに2つに分かれました。

興和は名古屋市中区錦三丁目、瀧定名古屋は名古屋市中区錦二丁目。

この錦二丁目が長者町繊維街です。名古屋城の築城にともなう「清須越」で移ってきた町で、江戸時代から商人町として栄え、大正末期から昭和初期にかけて繊維関係の店が増えました。戦後は東京の横山町、大阪の丼池筋と並ぶ「日本三大繊維問屋街」と呼ばれています。

豊島とモリリンは一宮市です。モリリンの本社は一宮市本町。豊島は名古屋市中区と東京都千代田区に本社を置いていますが、登記上の本店は愛知県一宮市にあります。

一宮は「ウールの世界三大産地・尾州の中心地」とされる土地です。平安時代には錦綾を生産し、江戸時代の享保年間には市で縞木綿や絹織物が売買され、明治以降に毛織工業が発展しました。毛織物製造出荷額の全国シェアは約18.2%(2001年度)です。

布を織る町に商社の本店があり、問屋街に商社の本社がある。同じ県の中で、産地と問屋が別々に残っています。

産地は消えても、商社は残った

産地の会社を探したとき、鯖江の眼鏡も関の刃物も豊岡のカバンも、企業リストにはほとんど出てきませんでした。産地は売上10億円未満の小さな事業者の集まりなので、10億円で線を引くと丸ごと落ちるからです。

尾州も例外ではありません。一宮市の繊維関連産業は衰退傾向にあり、生産は海外に移り、工場跡は住宅や商業施設になっています。

それでも商社は残っています。豊島は繊維商社で第3位、売上高は約1,800億円(2016年6月期)。モリリンは990億円(2020年2月期)。織る工程が海外に出ても、買って売る機能は動かなかったということになります。

学生服の3社が岡山にあったときは、織って縫う工程がその土地に残っていました。尾州は逆で、工程は出ていき、商いだけが残っています。

薬に移ったのは、興和だけ

4社のうち、興和だけが別の商売に主軸を移しました。

1912年に株式会社服部商店へ改組し、1960年に興和株式会社へ社名変更。いまは商社部門とメーカー部門を持ち、商社部門で繊維や機械の貿易を、メーカー部門で医薬品と光学機器を作っています。キャベジンコーワもバンテリンコーワも、後から足された事業です。

面白いのは、繊維をやめていないことでした。兄弟会社の興和紡が紡績を担い、本体にも繊維・ファッションの事業が残っています。売上高7,431億9,700万円、従業員7,865人(2023年3月期)は、薬と光学機器と繊維を全部足した数字です。

明治27年の綿布問屋が、132年かけて薬の会社になり、それでも問屋のままでもある。同じ町の瀧定名古屋は繊維専門商社のままで、一宮の2社も繊維のままです。同じ場所、同じ時代に始まって、片方だけが薬に行きました。

数字と出典

会社所在地売上高(億円)売上の出典従業員1人当たり(万円)創業所在出自・現在
興和名古屋市中区錦三丁目7,4322023年3月期(連結)7,8659,4491894名古屋・錦服部兼三郎商店。いまはキャベジン・バンテリン
豊島一宮市(登記上の本店)2,162企業リスト(2025年)57637,5351841一宮綿屋半七。綿花の仲買から
モリリン一宮市本町889企業リスト(2025年)61114,5501662一宮森林右衛門商店。原糸・衣料・産業資材
瀧定名古屋名古屋市中区錦二丁目6622018年1月期52112,7061864名古屋・錦2001年に瀧定を会社分割
4社の数字。売上高の出所と決算期はそろっていません(下記参照)。

271社は、公的オープンデータから作った企業リストの「非上場・本社が東京以外」で卸売業を絞ったものです。

各社の創業・沿革・所在地の出所は次のとおりです。興和と瀧定名古屋はWikipedia日本語版の各記事、豊島とモリリンは各社サイトおよびWikipedia日本語版の記事に基づく二次的な紹介記事です。有価証券報告書や決算公告では取り直していません。長者町繊維街と一宮市の繊維産業に関する記述も、Wikipedia日本語版の各記事によります。

売上高の年次がそろっていません。興和の7,431億9,700万円は2023年3月期の連結、瀧定名古屋の662億3,400万円は2018年1月31日時点、豊島とモリリンは企業リストの値(2025年)です。本文で触れた豊島の約1,800億円は2016年6月期、モリリンの990億円は2020年2月期で、リストの値(2,162億円・889億円)とは基準も年次も違います。同じ会社の数字が2つ出てくるのはそのためです。

従業員数の基準もそろっていません。興和の7,865人は連結、瀧定名古屋の521名は2026年1月31日現在、豊島とモリリンはリストの値です。

「繊維商社で第3位」(豊島)は同社を紹介する記事の記載で、業界統計で確かめたものではありません。「日本三大繊維問屋街」も同様に、長者町繊維街の記事にある呼称です。

豊島の所在地は、見る資料によって変わります。同社は名古屋市中区と東京都千代田区に本社を置いていますが、登記上の本店は一宮市です。企業リストは法人番号のデータを使っているので本店の住所が入っており、この記事もそれに合わせています。建設業を調べたときの東洋建設と同じ形です。

タキヒヨー(愛知県、785億円)は同じ町の繊維商社ですが、この記事には入れていません。東証スタンダードに上場しており、「非上場」の条件から外れるためです。

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