鯖江の眼鏡も今治のタオルも出てこない。10億円の線が産地を切っていた

  2026年09月15日 00:00

このブログを始めるとき、記事30本の設計を作りました。そのとき真っ先に思いついたのが産地です。

鯖江の眼鏡。関の刃物。豊岡のカバン。浜松の楽器。児島のジーンズ。大川と旭川の家具。奈良の靴下。今治のタオル。地方の非上場企業を扱うなら、ここを外す手はない。6本ぶんの案を立てました。

そして全部落としました。企業リストに、1社も載っていなかったからです。

0件が7つ並んだ

改めて数え直しました。上場企業も含めて、産地に関係する語で全国から検索した結果です。

産地該当件数
鯖江の眼鏡0件
関の刃物0件
豊岡のカバン0件
児島のジーンズ0件
大川の家具0件
旭川の家具0件
奈良の靴下0件
浜松の楽器1件(河合楽器製作所・上場)
今治のタオル2件(14億円・10億円)
燕三条の金物9件

産地の側が小さいわけではありません。

鯖江市は、日本の眼鏡フレーム生産の約96%を占めます。世界でも約20%のシェアがあるとされる産地です。今治タオルは今治タオル工業組合の組合員が110社(2016年)、生産量12,036トンで、国産タオルの6割弱を作っています。1960年に泉州を抜いて日本最大のタオル産地になりました。

国内の眼鏡フレームの96%を作っている場所に、売上高10億円を超える会社が1社もない。

「眼鏡」で検索したら、12社出てきた

ここで気づいたことがあります。産地名ではなく、製品名で検索したらどうなるか。

企業リストで「眼鏡」「メガネ」を含む会社を、上場も含めて全国から拾いました。12社ありました。

会社売上高
メガネトップ929億円
メガネスーパー238億円
キクチメガネ137億円
メガネの田中チェーン125億円
メガネドラッグ76億円
ルック・ヒライ48億円
武田メガネ46億円
2130億円
ムラタ30億円
銀座メガネ23億円
東江メガネ22億円
イワキ—

全部が小売チェーンです。製造は1社もありません。

同じことが他の産地でも起きていました。「楽器」で検索すると10社出ますが、製造は河合楽器製作所だけで、あとは島村楽器・山野楽器・黒澤楽器店・石橋楽器店といった小売です。「家具」で13社出ますが、製造はカリモク家具が目立つ程度で、大塚家具・アクタス・かねたや家具店・服部家具センターと小売が並びます。

970億円の会社と、14億円の会社

数字で並べると、はっきりします。

メガネトップ(静岡市葵区)は売上高970億9,300万円(2026年3月期)、従業員5,201人。1980年5月20日設立で、事業は「メガネ、コンタクトレンズ、補聴器の販売」——小売業です。2013年8月23日に上場廃止しており、いまは非上場。だからこのリストに載っています。

一方、七福タオル(愛媛県今治市富田新港)は売上高14億2,000万円(2012年7月末決算)、従業員65名。1959年2月創業、1985年8月設立。事業は「タオルの製造・販売」です。

メガネトップの売上は、七福タオルの68倍あります。片方は売る会社で、片方は作る会社です。

売る会社作る会社
0200400600800メガネトップ/静岡市葵区/売上高 970.9億円(2026年3月期)メガネトップ971カリモク家具/愛知県東浦町/売上高 232億円(2017年度)カリモク家具232七福タオル/愛媛県今治市/売上高 14.2億円(2012年7月末)七福タオル14.2億円
売る会社と作る会社の対比(億円)。メガネトップは小売、カリモク家具と七福タオルは製造。決算期は社ごとに大きく異なります。

作る側で例外的に線を越えているのがカリモク家具(愛知県知多郡東浦町)で、232億円(2017年度)、従業員772名。1940年創業、1947年設立。木製家具の製造販売で、岐阜・豊明・東浦に製造子会社を持っています。

大川でも旭川でもなく、愛知県の会社でした。産地の企業ではなく、産地の外で大きくなった製造業です。

足切りの線が、何を落としているか

理由は単純でした。

産地は、小さな事業者の集まりです。 今治タオルの組合員は110社。国産タオルの6割弱を、110社で分けています。1社あたりにすると、売上高10億円に届かない会社のほうが多くなります。鯖江も同じ構造でしょう。

一方、売る側は集約されています。 全国に店を出すチェーンは1社で数百億円になる。だから10億円の線を軽々と越えます。

つまり、売上高10億円という足切りは、産地の製造業者を落として、それを売る流通業者を残します。

この企業リストで「眼鏡の会社」を探すと、鯖江ではなく全国の眼鏡店チェーンが出てきます。「家具の会社」を探すと、大川や旭川ではなく家具販売店が出てきます。リストは「作る人」ではなく「売る人」を写しています。

見えないものを、見えないと書く

このブログは、公的データから作った企業リストを起点に書いています。EDINET、JPXの上場銘柄一覧、Wikidata、Wikipediaのダンプ、法人番号の全件データを突き合わせて11,953社。その網羅性を売りにしてきました。

ただ、この網には最初から穴が開いています。 売上高10億円という線を引いた時点で、日本の地場産業の大きな部分が落ちています。

これまでの記事で、リストの数字が壊れている例や、売上高の定義が業種で違う例を書いてきました。それらは「載っているものが正しくない」という話でした。今回は違います。載っていないものがあるという話です。

そして載っていないことは、リストを眺めているだけでは絶対に気づけません。鯖江の眼鏡が0件であることは、鯖江を探しにいって初めて分かります。

企画の最初に立てた6本の産地記事は、書けませんでした。書けなかったこと自体が、この道具の形を教えてくれた——というのが、いまのところの結論です。

数字と出典

会社所在地売上高(億円)売上の出典従業員1人当たり(万円)創業立ち位置主力
メガネトップ静岡市葵区970.92026年3月期5,2011,8671980売る会社メガネの小売
カリモク家具愛知県東浦町2322017年度7723,0051940作る会社木製家具の製造販売
七福タオル愛媛県今治市14.22012年7月末652,1851959作る会社タオルの製造・販売

産地ごとの該当件数は、企業リストに対する私の検索結果です。 社名・Wikipediaの記事名・業種の欄に、産地に関係する語(「眼鏡」「刃物」「鞄」「ジーンズ」「家具」「靴下」「タオル」など)が含まれるかで数えました。この方法では、社名に製品名が入っていない産地企業は拾えません。 0件という結果は「リストに存在しない」ことの証明ではなく、「この検索では見つからない」という意味です。実際の産地企業が別の社名でリストに入っている可能性は残ります。

眼鏡12社の売上高は、企業リストの値をそのまま引いたものです。 メガネトップ以外は個別に取り直していません。年次の誤りを含む可能性があります。なおメガネトップの数字も、リストでは929億円ですが、記事では970億9,300万円(2026年3月期)でした。

鯖江市の眼鏡フレーム国内生産約96%・世界約20%、今治タオル工業組合の組合員110社・生産量12,036トン(いずれも2016年現在)・国産タオルの6割弱・1960年に日本最大の産地となったことは、Wikipedia 日本語版の記載に拠ります。鯖江のシェアには出典年の記載がありません。

各社の売上高・従業員数・設立年・本社所在地も Wikipedia 日本語版に拠ります。七福タオルの14億2,000万円は2012年7月末決算で、14年前の数字です。カリモク家具は2017年度。

「鯖江も同じ構造でしょう」は推測です。鯖江の事業所数や1社あたりの規模は確認できていません。

3社は、公的オープンデータから作った企業リストから選んでいます。

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