2026年09月13日 00:01
企業リストを業種で「卸売業」に絞ると、名前を知らない会社が数千億円の売上高で並びます。
アステム3,683億円。ほくやく2,232億円。中北薬品2,132億円。恒和薬品1,616億円。九州東邦1,260億円。よんやく810億円。
全部が医薬品卸でした。病院や薬局に薬を届ける会社です。私たちが薬を受け取る一つ手前にいて、売上高は数千億円あって、名前は知られていません。
一社ずつ調べました。結果として、このブログの前提のほうが揺らぎました。
調べ方は単純です。各社の資本関係を確認していきました。
6社の資本関係
6社のうち5社が、全国規模の会社の系列に入っていました。
メディパル、アルフレッサ、東邦。医薬品卸で名前の挙がる大手です。よんやくも九州東邦も東北アルフレッサも、その系列でした。中北薬品は「葦の会」という東邦薬品の企業グループの一社です。
残るほくやくは、ほくやく・竹山ホールディングスという持株会社の子会社でした。この持株会社が全国大手の傘下にあるという記載は見つかりません。 グループには竹山、そえる、マルベリー、北海道医療情報サービス、村井薬局などが並び、北海道の中で完結している形に見えます。
東北アルフレッサを調べていて、企業リストの表記がおかしいことに気づきました。
リストには「株式会社恒和薬品・福島県・1,616億円・2026年」と入っています。ところが Wikipedia の記事は「東北アルフレッサ株式会社」で、こう書かれていました。
商業圏域が同一の恒和薬品(本社:福島県郡山市)と小田島(本社:岩手県花巻市)が経営統合して東北アルフレッサ株式会社となった
設立は2018年10月1日。つまり恒和薬品は単独の会社としては8年前に姿を変えていて、リストに載っている1,616億円は統合後の東北アルフレッサの数字です。
古い社名に、新しい会社の数字が入っている。 前に調べた「リストに残るが実在しない会社」とも、「年次だけが古い」とも違う、また別の形でした。会社は生きていますが、その名前では生きていません。
もう一つ意外だったのが、創業年でした。
中北薬品の創業は1726年。享保11年です。名古屋で300年続いている会社が、いまは東邦薬品の企業グループの一社として2,178億円を売っています。
その隣に、2018年設立の東北アルフレッサが1,616億円で並ぶ。292年の差があります。
酒の記事で「会社の大きさは蔵の古さでは決まらない」と書きましたが、ここではもっと極端でした。創業年と規模に関係が見えません。この業種では、大きさを決めているのは系列と担当地域のようです。ただし、そう説明した資料には当たっていません。
このブログは、企業リストを「非上場・本社が東京以外」で絞って使っています。地方の会社を見るためです。
今回それが崩れました。よんやくの本社は松山市、九州東邦は福岡市、中北薬品は名古屋市。どれも東京ではありません。しかし資本は東京の大手に繋がっています。登記上の本社と、意思決定や利益の帰属先は、別の話でした。
このブログは初回から「非上場の上位は独立企業ではない」という問題を抱えていて、企業リストの説明にもそう書いてあります。トヨタ自動車九州もパナソニックの各社も、大企業の子会社です。ただ、それは売上1兆円規模の話だと思っていました。数千億円の卸でも同じで、むしろこの業種では、系列に入っていない会社を探すほうが難しい。
「本社が東京以外」は、住所の話でしかありませんでした。地方に本社がある会社と、地方の会社は、違います。
そのうえで、この6社を追ってよかったと思っています。
中小企業診断士の勉強で流通のところを読むと、卸売業は「メーカーと小売のあいだに立って、品揃えを作り、運び、代金を立て替え、情報を流す」機能として説明されます。テキストの上では、どの卸も同じ機能を持つものとして横に並びます。そして「寡占化が進んでいる」と、1行で書かれていたりします。
その1行の中身が、今回は社名と資本関係と統合の年で並んでいました。よんやくがメディパル、九州東邦が東邦薬品、東北アルフレッサがアルフレッサ。1726年創業の中北薬品が東邦薬品の企業グループにいて、2018年設立の東北アルフレッサが1,616億円を売っている。寡占という言葉が、地名のついた会社の名前と、統合された年の形で見えました。
卸売業という一つの業態を、業務の内容ではなく資本の形から見たのは初めてでした。知識として読んだつもりでいたことに、手触りがついた気がします。企業リストは地方の会社を探すために作りましたが、こういう使い方もできるようです。
| 会社 | 所在地 | 売上高(億円) | 売上の出典 | 従業員 | 1人当たり(万円) | 創業 | 資本関係 | 主力 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| アステム | 福岡市博多区 | 3,682.9 | 2019年3月 | — | — | 1948 | 全国大手の系列 | 九州・中国地方 |
| ほくやく | 札幌市中央区 | 2,232.4 | 2026年3月期 | 1,041 | 21,445 | 1913 | 地場の持株会社の下 | 北海道全域 |
| 中北薬品 | 名古屋市中区 | 2,178.6 | 2026年3月期 | 1,521 | 14,323 | 1726 | 全国大手の系列 | 中部を中心に全国 |
| 東北アルフレッサ | 福島県郡山市 | 1,616.1 | 2026年3月期 | — | — | 2018 | 全国大手の系列 | 東北6県 |
| 九州東邦 | 福岡市東区 | 1,260.3 | 2026年3月期 | 851 | 14,810 | 1948 | 全国大手の系列 | 九州7県 |
| よんやく | 松山市 | 853.4 | 2026年3月期 | 360 | 23,706 | 1949 | 全国大手の系列 | 愛媛・徳島 |
各社の売上高・従業員数・設立年・本社所在地・資本関係は、いずれも Wikipedia 日本語版の記載に拠ります。
ほくやく・竹山ホールディングスについて、全国大手の傘下でないことを確認したわけではありません。 そう書いた記載が見つからなかった、というだけです。表の「地場の持株会社の下」はその意味です。
「卸売業は品揃え・物流・金融・情報の機能で説明される」というのは、私が勉強で読んだ範囲の書き方で、特定の教科書を引いたものではありません。医薬品卸の寡占の程度についても、業界統計では確かめていません。この記事で確かめたのは、選んだ6社のうち5社が全国規模の会社の系列にあったというところまでです。6社の選び方は売上高の順で、業種全体を代表するように選んだわけではありません。
アステムの数字は2019年3月と古く、本社所在地もリストと食い違います。 企業リストでは大分県ですが、記事では福岡市博多区(福岡本社)です。親会社のフォレストホールディングスが大分県にあるためと思われますが、確認していません。
企業リストには「株式会社恒和薬品」として載っていますが、本文に書いたとおり2018年10月に東北アルフレッサへ統合されています。 記事では現在の社名で表記しました。
従業員数の年次が古い社があります。 ほくやくは2017年3月、九州東邦は2015年3月31日、よんやくは2019年8月現在です。売上高(2026年3月期)とは7〜11年の開きがあるため、この記事では1人当たり売上高を出していません。
よんやくの売上高は853億4,100万円(2026年3月期)で、企業リストの810億円とは異なります。記事側の新しい数字を採りました。
「大きさを決めているのは系列と担当地域」は私の見立てで、そう説明した資料には当たっていません。
6社は、公的オープンデータから作った企業リストから選んでいます。
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