2026年09月13日 00:00
企業リストを業種で「サービス業」に絞り、売上高順に並べたときのことです。
1位はマルハン(京都市)で、売上高1兆4,254億6,800万円(2026年3月期)。
このリストは非上場かつ本社が東京以外の会社に絞ってあります。そこに1兆円を超える会社が入っている。しかも上位を見ていくと、同じ業種の会社が続きます。D'station(群馬)、延田エンタープライズ(大阪)、キング観光(三重)、善都(愛知)、ニラク(福島)。
全部がパチンコホールの運営会社でした。
最初に引っかかったのは店舗あたりの数字です。
キング観光は25店舗で2,033億円。1店舗あたり81億円になります。善都は23店舗で1,545億円、1店舗あたり67億円。
飲食でも小売でも、1店舗で年間数十億円を売る業態はそう多くありません。前に調べたカインズは239店舗で4,437億円ですから、1店舗あたり18億円です。ホームセンターの4倍を、パチンコ店1軒が売っていることになります。
何かがおかしい。 そう思って、この業種の売上高の定義を調べました。
答えはすぐに出ました。
パチンコホールの売上高は貸玉料の総額です。客が玉を借りるために投入した金額を、そのまま計上しています。客への払い戻しを考慮していません。
パチンコの売上高の意味
ニラクに至っては、企業リストに載っている数字がそのまま「総貸玉収入」と書かれていました。 1,318億3,500万円(2024年3月期・総貸玉収入)。他の会社は「売上高」としか書かれていないので気づきませんでしたが、同じものを指しています。
つまり、マルハンの1兆4,255億円は、客が投入した金額の総額です。還元率85%を当てはめると、ホールに残るのは2,100億円ほどという計算になります。それでも十分に大きな会社ですが、1兆4,255億円という数字を他業種の売上高と並べるのは、意味が違います。
1店舗81億円という数字も、これで説明がつきました。客が投入した総額なら、その規模になります。
もう一つ、業界の数字を見て意外だったことがあります。
| 年 | 市場規模(貸玉ベース) | 店舗数 | 参加人口 |
|---|---|---|---|
| 1995年 | 30兆9,050億円 | — | — |
| 2005年 | 34兆8,620億円(ピーク) | 13,163店 | — |
| 2015年 | — | 10,319店 | — |
| 2019年 | 20兆円 | — | — |
| 2022年 | 14兆6,000億円 | — | 770万人 |
| 2023年 | 15兆7,000億円 | 6,734店 | 660万人 |
| 2024年 | — | 6,513店 | — |
2005年のピークから、市場規模は半分以下、店舗数も半分以下になっています。参加人口も2022年の770万人から2023年に660万人へ減っています。
縮んでいる産業の中で、企業リストの上位に並ぶ会社が残っている。今回調べた6社の店舗数を足すと約545店ですから、全国6,513店の8%ほどにあたります。
各社の事業内容を見ていて、もう一段引っかかりました。ホールだけをやっている会社ばかりではありません。
D'station(群馬県高崎市)は、アミューズメント事業のほかにフィットネス、フェンシング、モータースポーツ、飲食、温浴、インターネットカフェ・カラオケ、コンビニエンスストア、コインランドリー、託児施設を挙げています。2025年9月1日にNEXUS株式会社から商号変更したばかりです。
マルハンはボウリング場・アミューズメント・映画館に加え、子会社でビルメンテナンス、飲食、ゴルフ、海外金融事業を展開。延田エンタープライズは入浴施設「延羽の湯」、ゴルフ場、商業施設、書店、生花店。キング観光はフィットネスジムのほか、三重県で餃子の無人販売店を4店。
フェンシングと餃子の無人販売が同じ会社の事業一覧に並んでいるのは、率直に予想外でした。縮む市場のなかで、店舗と土地と人を別の用途に回していると読めますが、各社がそう説明した資料には当たっていません。
パチンコホールの売上高は、客が投入した金額の総額です。会計の言葉でいえばグロスで、払い戻しを引いたネットではありません。
その差は、業界全体の数字で確かめられます。2022年の市場規模は貸玉ベースで14兆6,000億円。同じ2022年の粗利規模は約2兆3,800億円。割ると16.3%です。別の箇所に書かれている「還元率85%程度で、ホールに残るのはその15%程度」と、ほぼ一致します。
出所の違う2つの数字が噛み合った瞬間に、この業種の輪郭が出ました。マルハンの1兆4,255億円は、ネットに直せば2,000億円台です。それでも十分に大きな会社であって、小さく見せる話ではありません。ただ、他業種の売上高と同じ列に並べて上から読むことは、やはりできません。
互助会の記事でも似たことがありましたが、あちらは見るべき数字が別にあった(売上高より預かっている前受金)という話でした。今回は同じ名前の数字が別のものを指していたという話です。後者のほうが厄介で、そして面白いところでした。
面白かったのは、その先です。この6社は非上場で、有価証券報告書も決算説明会もありません。手元にあるのは売上高と従業員数と店舗数、それに事業一覧くらいです。それでも、
公開されている情報が少ないほど、限られた数字の形そのものが手がかりになります。上場企業なら開示資料を読めば済むところを、非上場の会社では、そうやって外側から輪郭をなぞるしかありません。
売上高順に並べて上から読むという、いちばん自然な使い方は、この業種では成立しませんでした。代わりに、なぜ成立しないのかを調べるという読み方ができました。企業リストの使いでは、そちらのほうにありそうです。
| 会社 | 所在地 | 売上高(億円) | 売上の出典 | 従業員 | 1人当たり(万円) | 創業 | 事業の広がり | 主力 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| マルハン | 京都市上京区 | 14,254.7 | 2026年3月期 | 10,610 | 13,435 | 1957 | 他業種も広く展開 | ホール312店ほか |
| D'station | 群馬県高崎市 | 3,751.9 | 2025年6月期 | 1,528 | 24,554 | 1995 | 他業種も広く展開 | ホール60店ほか |
| 延田エンタープライズ | 大阪市中央区 | 2,615.3 | 2023年12月期 | 2,893 | 9,040 | 1963 | 他業種も広く展開 | ホール68店ほか |
| キング観光 | 三重県桑名市 | 2,033 | 2024年度 | 820 | 24,793 | 1982 | ホール中心 | ホール25店 |
| 善都 | 愛知県豊田市 | 1,545.6 | 2024年12月期 | 1,014 | 15,243 | 1971 | ホール中心 | ホール23店・不動産 |
| ニラク | 福島県郡山市 | 1,318.4 | 2024年3月期・総貸玉収入 | 1,191 | 11,070 | 1969 | ホール中心 | ホール57店 |
パチンコの売上高が貸玉料の総額であること、還元率85%程度でホールに残るのはその15%程度であること、市場規模・店舗数・参加人口の推移は、いずれも Wikipedia 日本語版「パチンコ」の記載に拠ります。業界団体や警察庁の一次資料には当たっていません。
各社の売上高・従業員数・設立年・店舗数・事業内容も Wikipedia 日本語版に拠ります。
「還元率85%を当てはめると2,100億円ほど」は私の計算で、マルハンが公表した数字ではありません。還元率は店舗や時期で変わるはずで、目安として示したものです。
粗利と貸玉の比(16.3%)も私の計算です。 2022年の市場規模14兆6,000億円と、同じ2022年の粗利規模約2兆3,800億円を割ったものです。どちらもWikipedia日本語版「パチンコ」の記載で、集計主体や定義がそろっているかは確認していません。還元率85%という別記述と近い値になりましたが、これをもって互いを裏づけたとまでは言えません。
店舗数の年次がそろっていません。 マルハンは2023年3月期、ニラクは2018年11月時点、延田エンタープライズとキング観光は2022年5月現在の記載です。「6社の店舗数を足すと約545店」もこのずれを含みます。
東和産業(企業リスト上1,044億円)は対象から外しました。 リストでは本社が和歌山県となっていますが、記事では東京都港区新橋とされており、このブログの「本社が東京以外」という条件に合いません。従業員数もリストの144名に対し記事では291人(2019年4月)でした。同名の別会社の取り違えか、リスト側の誤りと思われます。
ニラクは香港証券取引所に上場しています。 持株会社の株式会社ニラク・ジー・シー・ホールディングスが2015年4月に上場(銘柄コード1245)。企業リストは日本の取引所を基準に非上場としているため、この会社が入っています。「非上場」の意味が国内限定であることに注意してください。
併営している事業の理由は確認していません。 本文に書いたとおり推測も避けています。
6社は、公的オープンデータから作った企業リストから選んでいます。
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