中日新聞社も北海道新聞社も上場しない。1951年の法律のためだった

  2026年09月12日 00:01

企業リストは「非上場・本社が東京以外」で絞ってあります。そこに新聞社と放送局が、かなりの数で並んでいました。

中日新聞社990億円。読売テレビ放送751億円。毎日放送678億円。朝日放送テレビ622億円。関西テレビ放送553億円。神戸新聞社375億円。北海道新聞社368億円。西日本新聞社339億円。

この規模で、上場企業がほとんどありません。 他の業種なら、売上数百億円ともなれば上場している会社が混ざります。小売でも造船でも紙でも、そうでした。

なぜこの業種だけ、揃って非上場なのか。

1951年の法律に書いてあった

理由は制度にありました。

「日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律」(昭和26年法律第212号)。1951年6月2日に成立し、7月1日に施行されています。

日刊新聞法の内容

  • 目的は、新聞の言論の自由と報道の真実性を確保すること
  • 「新聞は社会の公器であり、その事業は高度の公共性を持つ」という理由で制定された
  • 株主が「事業に関係のない者」になった場合、その株式を「事業に関係のある者」に譲渡しなければならない、という保有制限を定款で置けるようにした
  • 「事業に関係のある者」の範囲は新聞社ごとに異なる。日本経済新聞社は役職員と元役職員、グループ内法人に限定していると例示されている

株式を誰にでも売れる状態にできないわけです。上場は不特定多数への株式の流通が前提なので、この制限とは両立しません。

意外だったのは、この法律が新聞社を守るために作られていることでした。買収されて論調が変わることを防ぐための仕組みです。結果として株式が動かなくなり、非上場のまま残っている。

このブログでは互助会が経済産業省の許可事業だったことや、空港の運営権が44年契約で民間に渡っていることを見てきました。ここでもまた、会社の形を決めているのは制度のほうでした。

株主名簿に、そのまま出ていた

制度の話は分かりました。では実際の株主はどうなっているのか。神戸新聞社を見て、はっきりしました。

株主比率
従業員持株会40.80%
川崎重工業4.16%
阪急阪神ホールディングス3.83%

筆頭株主が従業員持株会です。(2025年11月30日現在)

「事業に関係のある者」に株式を集めた結果が、そのまま株主名簿に出ています。1898年(明治31年)2月11日創刊の会社が、いまも社員が4割を持つ形で続いている。

他社も同じ方向でした。中日新聞社は大島家と小山家による共同オーナー制で、2007年時点では第8代社長の大島宏彦が4.77%、元副社長の小山勇が4.33%を保有していたと記載されています。読売テレビ放送は読売中京FSホールディングスが100%。毎日放送はMBSメディアホールディングスが100%。

どの会社も、株式が外に出ていきません。

新聞社放送局
0200400600800中日新聞社/名古屋市中区/売上高 990億円(2025年3月期)中日新聞社990読売テレビ放送/大阪市中央区/売上高 751.4億円(2024年度・連結)読売テレビ放送751毎日放送(MBS)/大阪市北区/売上高 677.9億円(2025年度)毎日放送(MBS)678北海道新聞社/札幌市中央区/売上高 368.4億円(2024年3月期)北海道新聞社368神戸新聞社/神戸市中央区/売上高 365.1億円(2025年11月期・連結)神戸新聞社365東海テレビ放送/名古屋市東区/売上高 280.6億円(2022年度)東海テレビ放送281億円
新聞社3社・放送局3社の売上高(億円)。決算期は社ごとに異なります。神戸新聞社と読売テレビ放送は連結です。

放送局のほうが、1人当たりが高い

数字を並べていて、業種内に差があることに気づきました。

新聞社放送局
05,00010,000読売テレビ放送/売上高 751.4億円 ÷ 従業員 593名読売テレビ放送12,671毎日放送(MBS)/売上高 677.9億円 ÷ 従業員 641名毎日放送(MBS)10,576東海テレビ放送/売上高 280.6億円 ÷ 従業員 351名東海テレビ放送7,994中日新聞社/売上高 990億円 ÷ 従業員 2,566名中日新聞社3,858北海道新聞社/売上高 368.4億円 ÷ 従業員 1,089名北海道新聞社3,383神戸新聞社/売上高 365.1億円 ÷ 従業員 1,172名神戸新聞社3,115万円
従業員1人当たり売上高(万円)。売上と従業員の基準年がずれている社があります(東海テレビは売上2022年度・従業員2021年4月)。

放送局は7,994万〜1億2,671万円、新聞社は3,115万〜3,858万円。放送局が新聞社の2〜4倍あります。

読売テレビ放送は593名で連結751億円、東海テレビ放送は351名で280億円。一方、神戸新聞社は連結1,172人で連結365億円、中日新聞社は2,566人で990億円です。

新聞は取材する記者を抱え、印刷して配る必要があります。放送は電波で送るので、配る部分の人手が要りません。そう説明したくなりますが、確認していません。 制作の外注比率や、連結範囲の違いもあり得ます。今回言えるのは、同じ「メディア」でも1人当たりの水準がはっきり分かれているという事実までです。

「傘下」という言葉が、持株比率とは限らない

もう一つ、調べていて引っかかったことがあります。

中日新聞社の記事には、傘下の放送局として中部日本放送・東海テレビ放送・東海ラジオ放送・テレビ愛知・三重テレビ放送・石川テレビ放送・富山テレビ放送・福井テレビジョン放送などが挙げられています。中部と北陸のテレビ局が、ほぼ並んでいます。

これを見て「1社が地域の放送を握っている」と読みかけました。しかし東海テレビ放送のほうの記事を見ると、株主構成はこうでした。

株主比率
東海ラジオ放送49.75%
愛知県7.50%
名古屋鉄道6.28%
中日新聞社5.38%
フジ・メディア・ホールディングス3.33%

中日新聞社の直接の持株は5.38%で、筆頭は東海ラジオ放送の49.75%です。愛知県が7.50%持っているのも目を引きます。

「傘下」という言葉は、直接の持株比率を意味していませんでした。 系列としての結びつきや、間接的な保有を含んだ言い方です。片方の記事だけを読んで「中日新聞社が中部のテレビ局を支配している」と書いていたら、外していました。

「腰が重い」と言われる側の事情

最初の問いへの答えは、単純でした。この業種が非上場なのは、経営判断ではなく制度によるものです。1951年に、言論の自由を守るという理由で株式の流通を制限する法律が作られ、その結果が75年後の株主名簿に出ています。神戸新聞社の従業員持株会40.80%は、その一番はっきりした形です。

ただ、株式を「事業に関係のある者」にしか渡せないというのは、裏返すと資本の面でできることが少ないということでもあります。市場から資金を集められません。外から株主を迎えて事業を組み替えることもできません。買収されない代わりに、自分から動く手段も限られます。

新聞社は「オールドメディア」と呼ばれ、変化への腰が重いと言われます。調べる前は、私もそういう見方をしていました。株主名簿まで見てみると、その動きにくさの一部は、体質ではなく立場のほうから来ているように見えます。1951年の法律は「新聞は社会の公器であり、その事業は高度の公共性を持つ」という理由で作られました。論調を買収から守るための縛りであり、守られている代わりに、身軽ではいられません。

長く続いているから重いのではなく、引き受けているものがあるから動きにくい。伝統の話だと思っていたところに、責任と立場の話が入っていました。それを知れたのが、この6社を調べていちばんの収穫でした。

数字と出典

会社所在地売上高(億円)売上の出典従業員1人当たり(万円)創業業種主力
中日新聞社名古屋市中区9902025年3月期2,5663,8581942新聞社中日新聞・東京新聞
読売テレビ放送大阪市中央区751.42024年度・連結59312,6711958放送局日本テレビ系
毎日放送(MBS)大阪市北区677.92025年度64110,5761950放送局TBS系
北海道新聞社札幌市中央区368.42024年3月期1,0893,3831942新聞社北海道新聞
神戸新聞社神戸市中央区365.12025年11月期・連結1,1723,1151898新聞社神戸新聞
東海テレビ放送名古屋市東区280.62022年度3517,9941958放送局フジテレビ系

日刊新聞法(正式名称「日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律」、昭和26年法律第212号、1951年6月2日成立・7月1日施行)の内容と目的、各社の売上高・従業員数・設立年・株主構成は、いずれも Wikipedia 日本語版の記載に拠ります。法律の条文そのものには当たっていません。

日刊新聞法と「上場しないこと」を直接結びつけた記述は、記事にはありません。 株式の譲渡が制限されることと、上場が不特定多数への流通を前提とすることから、私が繋いだ推論です。他の要因(放送法の規制、資本関係の歴史など)も考えられます。

「動きにくさが立場から来ている」というのも、私の読み方です。 確かめられたのは、株式の譲渡に制限を置けること、その理由が「新聞は社会の公器であり、その事業は高度の公共性を持つ」と説明されていること、実際に神戸新聞社の筆頭株主が従業員持株会であること、の3つまでです。各社が実際に資金調達や事業の組み替えで困っているかどうかは、調べていません。

放送局のほうが1人当たりが高い理由は確認していません。 本文に書いたとおり推測も避けています。

基準年がそろっていません。 1人当たり売上高は、分子と分母の年次がずれた社が複数あります。

会社売上高の年次従業員数の年次
読売テレビ放送2024年度2023年度
毎日放送2025年度2022年5月
東海テレビ放送2022年度2021年4月1日
神戸新聞社2025年11月期2025年11月30日

毎日放送は3年ずれています。 中日新聞社の株主比率は2007年時点の記載です。

毎日放送は2026年9月1日付で「株式会社MBS」に商号変更しています。設立年の1950年は初代法人(新日本放送株式会社、1950年12月27日設立)のもので、現法人は2016年設立・2017年商号変更です。年表はこの点で基準が揃っていません。

中国新聞社(広島)は今回の対象から外しました。 企業リスト上、中華人民共和国の同名の通信社の記事が紐づいており、数字の確認ができなかったためです。前に書いた同名の別会社の取り違えが、ここでも出ています。

冒頭に挙げた朝日放送テレビ・関西テレビ放送・西日本新聞社の売上高は、企業リストの値をそのまま引いたものです。 記事で扱った6社と違い、個別に取り直していません。年次の誤りを含んでいる可能性があります。

6社は、公的オープンデータから作った企業リストから選んでいます。

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