よつ葉乳業は、酪農家が自分で作った会社だった

  2026年09月14日 00:00

スーパーの牛乳売り場には、聞いたことのない社名がいくつも並んでいます。地元の牛乳、産地を書いた牛乳、価格の安いもの。私はそれらを「どれも同じような会社が作っている」と、なんとなく思っていました。

企業リストから乳業の会社を売上高順に並べ、一社ずつ資本関係を辿りました。所有の形が3つに分かれていました。

酪農家が出資して作った会社がある

いちばん意外だったのは、よつ葉乳業(札幌市中央区)です。売上高1,273億円(2024年度)、従業員882名。

この会社は、十勝管内の8つの農業協同組合(上士幌、士幌、音更、鹿追、川西、幕別、豊頃、中札内)が中心となって設立された、「農民資本の乳業会社」でした。1967年1月23日に「北海道協同乳業」として設立され、現在はホクレン農業協同組合連合会の関連法人です。

設立の経緯も記録されていました。

創業者・太田寛一が1966年にヨーロッパを視察し「生産者が加工から販売までを手掛けている農村の姿」を目の当たりにしたことで、北海道の酪農家による出資と一体化した仕組みの必要性を認識し、設立された

牛乳を作る人が、加工して売る会社を自分たちで持つ。 乳業メーカーが酪農家から生乳を買うという、私が想定していた向きと逆でした。

同じ形が九州にもあります。南日本酪農協同(宮崎県都城市)は売上高356億円(2024年度)、従業員490名。主要株主は宮崎県南部酪農業協同組合と鹿児島県酪農業協同組合です。1960年に宮崎県南部酪農協同組合の牛乳製造販売事業を株式会社として引き継いだのが始まりでした。

「スコール」や「ヨーグルッペ」を作っている会社ですが、株主は酪農協同組合です。

そして熊本県酪農業協同組合連合会(熊本市東区、624億円)に至っては、株式会社ですらありません。協同組合連合会そのものが「らくのう牛乳」を作っています。1954年4月3日設立、職員270名。

酪農家・農協が出資独立系大手乳業の系列
05001,000よつ葉乳業/札幌市中央区/売上高 1273億円(2024年度)よつ葉乳業1,273高梨乳業/横浜市旭区/売上高 1070.9億円(2024年9月末)高梨乳業1,071熊本県酪農業協同組合連合会/熊本市東区/売上高 624億円(年次の記載なし)熊本県酪農業協同組合連合会624赤城乳業/埼玉県深谷市/売上高 592億円(2024年12月)赤城乳業592オハヨー乳業/岡山市中区/売上高 477億円(2025年3月期)オハヨー乳業477南日本酪農協同/宮崎県都城市/売上高 356億円(2024年度)南日本酪農協同356東北森永乳業/仙台市宮城野区/売上高 113億円(2026年3月期)東北森永乳業113億円
乳業7社の売上高(億円)。決算期は社ごとに異なり、熊本県酪農業協同組合連合会の624億200万円には年次の記載がありません。

独立系は、商品で全国区になっている

一方、酪農協同組合と関係のない会社もあります。こちらは商品の名前のほうが知られていました。

赤城乳業(埼玉県深谷市)は売上高592億円(2024年12月実績)、従業員880名(うち社員412名)。1931年10月22日に合名会社広瀬屋商店として創業し、1961年に株式会社になっています。

主力商品はガリガリ君。1981年の発売で、当初は50円でした。

ガリガリ君の値段と本数

  • 1981年 発売。50円
  • 1991年 60円に値上げ
  • 2000年 CM開始。年間発売本数1億本を突破
  • 2005年 年間販売本数1.5億本を突破
  • 2016年 70円に値上げ

35年で20円の値上げです。1981年から2016年までのあいだに、値上げは2回しか記録されていません。

高梨乳業(横浜市旭区)は売上高1,070億8,847万円(24年9月末現在)、従業員1,618名で、今回調べた中で従業員がいちばん多い会社です。1946年に高梨畜産合資会社として設立、1954年に現社名。低温殺菌牛乳や北海道純生クリームのほか、ハーゲンダッツの国内製造を受託しています。

店頭に「タカナシ」の名前で並ぶ商品と、他社ブランドで並ぶ商品の両方を作っている。

オハヨー乳業(岡山市中区)は477億円(2025年3月期)、929名。1953年に大日本乳業として設立され、1957年に現社名になりました。焼プリンやドリンクヨーグルトの会社です。オハヨーホールディングスの100%子会社。

大手の系列も混ざっている

3つ目の形が、大手乳業の系列です。

東北森永乳業(仙台市宮城野区)は売上高113億円(2026年3月期)、従業員184名。2007年12月1日設立で、主要株主は森永乳業と日本製乳です。

今回調べた中では最も小さく、最も新しい会社でした。他の6社が1931年から1967年のあいだに生まれているのに対し、この会社だけが2007年です。

酪農家・農協が出資独立系大手乳業の系列
19251950197520002025赤城乳業/1931年/ガリガリ君赤城乳業高梨乳業/1946年/低温殺菌牛乳・生クリーム高梨乳業オハヨー乳業/1953年/焼プリン・ヨーグルトオハヨー乳業熊本県酪農業協同組合連合会/1954年/らくのう牛乳熊本県酪農業協同組合連合会南日本酪農協同/1960年/スコール・ヨーグルッペ南日本酪農協同よつ葉乳業/1967年/牛乳・乳製品よつ葉乳業東北森永乳業/2007年/乳製品の製造・物流東北森永乳業
設立・創業年。1931年の赤城乳業から2007年の東北森永乳業まで。酪農家・農協が出資した3組織は1954年から1967年に集中しています。

年表にすると、酪農協同組合系の3組織が1954年から1967年に固まっていることが見えます。熊本県酪農連が1954年、南日本酪農協同が1960年、よつ葉乳業が1967年。

戦後の酪農振興期にあたる時期ですが、それが理由かどうかは確認していません。 3組織という数では、偶然の範囲を出ません。

同じ棚に、違う所有の形が並んでいる

調べ終えて残ったのは、こういうことでした。

牛乳売り場に並ぶパックの裏側には、酪農家が自分で出資して作った会社と、商品で全国区になった独立系と、大手乳業の系列が混ざっています。パッケージからは区別がつきません。

前の記事で医薬品卸を調べたときは、6社中5社が全国大手の系列で、地方に本社があっても資本は東京に繋がっていました。同じ「地方の会社」でも、業種によって形がまったく違います。

乳業では、生産者が出資して川下まで持つという形が成立していました。生乳は貯められず、産地から動かしにくい。だから生産者側に交渉力が残ったのではないか——と書きたくなりますが、そう説明した資料には当たっていません。 事実として言えるのは、よつ葉乳業と南日本酪農協同の株主が酪農協同組合であることと、熊本県酪農連が協同組合連合会そのものであることまでです。

企業リストは、この違いを何も教えてくれません。どの行にも「食料品」としか書かれていません。

数字と出典

会社所在地売上高(億円)売上の出典従業員1人当たり(万円)創業所有の形主力
よつ葉乳業札幌市中央区1,2732024年度88214,4331967酪農家・農協が出資牛乳・乳製品
高梨乳業横浜市旭区1,070.92024年9月末1,6186,6191946独立系低温殺菌牛乳・生クリーム
熊本県酪農業協同組合連合会熊本市東区624年次の記載なし27023,1111954酪農家・農協が出資らくのう牛乳
赤城乳業埼玉県深谷市5922024年12月8806,7271931独立系ガリガリ君
オハヨー乳業岡山市中区4772025年3月期9295,1351953独立系焼プリン・ヨーグルト
南日本酪農協同宮崎県都城市3562024年度4907,2651960酪農家・農協が出資スコール・ヨーグルッペ
東北森永乳業仙台市宮城野区1132026年3月期1846,1412007大手乳業の系列乳製品の製造・物流

各社の売上高・従業員数・設立年・本社所在地・株主構成、よつ葉乳業の設立経緯と太田寛一の欧州視察、ガリガリ君の発売年と価格改定・販売本数は、いずれも Wikipedia 日本語版の記載に拠ります。

熊本県酪農業協同組合連合会の624億200万円には、年次の記載がありません。 いつの数字か分からないまま掲載しています。

この記事では1人当たり売上高を出していません。 基準年のずれが大きすぎるためです。東北森永乳業は売上が2026年3月期で従業員が2017年7月現在(9年の開き)、熊本県酪農連は売上の年次が不明です。また熊本県酪農連の270名は「職員数」で、株式会社の従業員数と同じ枠で比べられません。

高梨乳業の資本関係は確認できませんでした。 非上場であることと、ハーゲンダッツジャパン向けの製造を受託していることは記載がありますが、同族企業か他社の子会社かは書かれていません。表では「独立系」としていますが、独立を確認したという意味ではなく、系列である記載が見つからなかったという意味です。

「生乳は貯められず産地から動かしにくいから生産者に交渉力が残った」は私の推測で、本文に書いたとおり資料の裏付けはありません。

設立年が1954〜1967年に集中していることの理由も確認していません。 3組織では偶然と区別がつきません。

7社(うち1つは協同組合連合会)は、公的オープンデータから作った企業リストから選んでいます。

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