2026年09月20日 00:00
スーパーの精肉売り場には、ブランドの名前が並んでいます。平牧三元豚、桜島美湯豚、なかやま牛。産地と品種と、育て方の名前です。
企業リストでその名前を引くと、それぞれ会社が出てきます。山形県酒田市の平田牧場、鹿児島県垂水市の大隅ミート産業、広島県福山市のなかやま牧場。どれも非上場の民間企業です。
そこは想像どおりでした。10社まで並べたところで、1社だけ名前の毛色が違うものが混ざりました。
先にブランド側を見ます。育て方に、それぞれ理屈がありました。
大隅ミート産業(鹿児島県垂水市)は、1973年設立の養豚会社です。弱アルカリ性のラドン泉の温泉水を使って豚を育てており、これによってミネラルをバランスよく与えられるとしています。2002年にこの方法で育てた豚を「桜島美湯豚」として商標登録しました。養殖から加工・販売までを一括で行っています。
平田牧場(山形県酒田市)は1964年に食肉直売所として創業しました。1971年に無添加ソーセージの開発に着手し、1973年に生活クラブ生協と出会って注文を受けたところから、生協との交流が続いています。完全無添加ソーセージの完成は1986年。翌々年に中国から金華豚を導入し、平牧三元豚と平牧金華豚を作りました。
なかやま牧場(広島県福山市)は、もっと徹底しています。1969年に肉牛の直販店を開いて生産から販売までの一貫体制を作り、この「なかやま方式」で1971年に農林大臣賞を受けています。1973年に食肉流通センターを開設し、1975年には食品スーパーを開店しました。自社の直営スーパー「ハート」で自社の牛を売っています。昭和40年代には、焼肉用途の増加に向けて乳牛の雄仔牛を肉用に肥育する技術を日本で初めて確立したとも記載があります。
ハム・加工品のほうは、県ごとに会社があります。沖縄ハム総合食品(読谷村)の製品欄には、コンビーフハッシュ、ランチョンミート、タコライス、ラフテー、てびち、そして豚の顔の皮を煮込んだ「むちむちチラガー」が並びます。1982年にレトルトパウチの琉球料理シリーズを始めており、レトルトカレー以外の汁物をレトルトにしたのは全国で初めてだったそうです。
そして、いわちくと北海道畜産公社。この2社だけ、名前が会社らしくありませんでした。
株式会社北海道畜産公社は札幌市に本社を置き、勇払郡安平町・函館市・旭川市・帯広市・網走郡大空町に工場を持つ食肉加工の会社です。売上高107億5,494万円。
大株主の欄に、こう並んでいました。
独立行政法人農畜産業振興機構/ホクレン農業協同組合連合会/全国農業協同組合連合会/旭川市/安平町/北海道/帯広市/天塩町/札幌市/函館市
10者のうち7つが自治体です。残りは国の独立行政法人と、農協の連合会が2つ。株式会社の形をとりながら、株主に民間企業がいません。
いわちく(岩手県紫波町)も同じでした。前身の「岩手畜産公社」は1961年2月、岩手県・盛岡市・岩手県経済連・岩手県信用農業協同組合連合会が発起人となって設立されています。1971年に岩手畜産流通センターができ、翌年に両者が合併しました。2018年に「株式会社いわちく」へ商号を変更しています。
なぜこの形になるのか。牛や豚を肉にする工程が、ふつうの工場とは別の枠にあるからでした。
日本にはと畜場法があり、生後1年以上の牛や馬、または1日に10頭を超える獣畜をと殺・解体する規模の施設を「一般と畜場」、それ以外を「簡易と畜場」と区別しています。搬入された家畜は、食肉衛生検査所や保健所に所属する獣医師である「と畜検査員」の検査を受けます。この検査員は地方自治体の職員です。施設の中に、自治体の獣医師がいます。
そして、施設の数が減り続けています。
| 時点 | と畜場の数 |
|---|---|
| 1960年 | 875 |
| 1986年 | 429 |
| 2017年4月 | 195(一般183・簡易12) |
大資本の進出で小規模な施設が閉じ、さらにO157やBSEへの対応で衛生基準が引き上げられた際、設備投資ができなかった小規模施設の多くが廃業しました。残った施設も、家畜を台の上で解体するベッド方式をやめ、フックで吊るすオンライン方式へ改築しています。
改築には金がかかります。1つの県に何か所も持てるものではなくなり、県と市町村と農協が金を出し合って1社にまとめる形が残りました。北海道畜産公社が1996年に、道内の7つの畜産公社(札幌・北海道畜産振興・北見・上川・函館・根室・十勝)を合併してできた会社であることも、同じ流れの中にあります。
売り場に並んでいるのは、平牧三元豚であり、桜島美湯豚であり、なかやま牛です。育て方に理屈があり、それぞれ民間の会社が名前を付けて売っています。
ただ、そのどれもが、生きた家畜から肉になる工程を1度は通ります。その工程を行える施設は、2017年4月の時点で全国に195か所しかありません。そこを持っている会社の株主欄には、県と市と町の名前が並んでいます。
精肉売り場で見えているのは民間のブランド名ですが、その1つ手前は、公衆衛生の制度の上に乗っていました。
| 会社 | 所在地 | 売上高(億円) | 売上の出典 | 従業員 | 1人当たり(万円) | 設立 | 型 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 日本ハム食品 | 三重県木曽岬町 | 479.9 | 2026年3月期 | 1,426 | 3,365 | 1979 | ハム・加工品 | 日本ハムの子会社 |
| いわちく | 岩手県紫波町 | 367 | 2025年度 | 286 | 12,832 | 1961 | 自治体・農協が出資 | 前身は岩手畜産公社 |
| なかやま牧場 | 広島県福山市 | 185 | 2022年10月期 | 971 | 1,905 | 1970 | ブランド畜産 | なかやま牛・直営スーパー「ハート」 |
| JA高崎ハム | 群馬県高崎市 | 181 | 2013年度 | 382 | 4,738 | 2005 | もう無い会社 | 2022年にJA全農ミートフーズへ |
| 平田牧場 | 山形県酒田市 | 155 | 2024年3月期 | 716 | 2,165 | 1967 | ブランド畜産 | 平牧三元豚・平牧金華豚 |
| 米久ケンコーハム | 静岡県三島市 | 133 | 2017年3月期 | 276 | 4,819 | 1952 | もう無い会社 | 2021年3月に清算結了 |
| 北海道畜産公社 | 北海道札幌市 | 107.5 | 2025年3月期 | 601 | 1,789 | 1957 | 自治体・農協が出資 | 道内7公社が1996年に合併 |
| 沖縄ハム総合食品 | 沖縄県読谷村 | 76 | 年次不明 | 600 | 1,267 | 1977 | ハム・加工品 | コンビーフハッシュ・チラガー |
| 大隅ミート産業 | 鹿児島県垂水市 | 66 | 年次不明 | 149 | 4,430 | 1973 | ブランド畜産 | 温泉水で育てる「桜島美湯豚」 |
| 大阿蘇ハム | 熊本県熊本市 | 56.6 | 2015年2月期 | 168 | 3,369 | 1973 | ハム・加工品 | 2009年からエスフーズ傘下 |
10社は、公的オープンデータから作った企業リストから選びました。各社の沿革・株主・製品の記述、およびと畜場法・と畜場数・と畜検査員に関する記述は、いずれもWikipedia日本語版の各記事(各社および「屠畜場」)に拠ります。法令の条文や厚生労働省の統計では取り直していません。
と畜場の195か所は2017年4月現在の数字です。 その後の増減は確認していません。875か所(1960年)と429か所(1986年)も同じ記事の記載です。
「大株主に自治体が並ぶ」のは、北海道畜産公社といわちくの2社について確かめたものです。 ほかの食肉センターや畜産公社がどうなっているかは調べていません。北海道畜産公社の大株主欄には持株比率が書かれていないので、自治体が合計で何割を持っているかは分かりません。いわちくについては、1961年の設立時に県・市・農協系が発起人だったという記述があるだけで、現在の株主構成は確認していません。
なかやま牧場は1973年に自社で「食肉流通センター」を開設しています。 ブランド畜産の会社が全社と畜を外部に委ねている、という意味ではありません。この記事で言えるのは、と畜場を持つ会社のなかに自治体出資の会社があるというところまでです。
1人当たり売上高は、分子と分母の年次がそろっていません。 そろっているのは、いわちく(どちらも2025年度)、なかやま牧場(どちらも2022年10月)、米久ケンコーハム(どちらも2017年3月)、大阿蘇ハム(どちらも2015年2月)の4社です。日本ハム食品は売上が2026年3月期で従業員が2015年4月30日現在と11年離れています。沖縄ハム総合食品・大隅ミート産業・平田牧場は年次の記載がありません。
2社はもうありません。 JA高崎ハムは2022年4月1日にJA全農ミートフーズへ吸収合併されて解散し、加工部門は同年1月設立のJA高崎ハムファクトリーが継承しています。米久ケンコーハムは2021年1月に米久と事業統合し、同年3月31日に清算が結了して法人格が消滅しました。企業リストの181億円(2013年度)と133億円(2017年3月期)は、いずれも消える前の数字です。
安愚楽牧場(784億6,200万円・2010年3月期)は入れていません。 企業リストでは畜産の上位に入りますが、同社は和牛の預託商法(オーナー制度)の会社で、食肉の生産・加工を主とする他社と並べられないためです。2011年8月9日に民事再生法の適用を申し立て、同年12月9日に東京地方裁判所が破産手続開始を決定しています。負債総額4,330億8,300万円、黒毛和牛委託オーナーの被害者は7万3,356人、被害総額4,207億6,700万円と記載があります。
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