金ちゃんヌードルの徳島製粉に、「公認販売エリア」という線があった

  2026年09月19日 00:01

讃岐うどん、札幌ラーメン、沖縄そば、名古屋のきしめん。麺は、食べ物のなかでも地域の名前がくっつきやすいほうです。

不思議なのは原料のほうで、日本の小麦はほとんどが輸入です。同じ港に着いた同じ産地の小麦を挽くのなら、大きな工場が数か所あれば足りるはずです。それなのに企業リストで製粉会社を拾うと、熊本、千葉、大阪、徳島、北海道、福岡、沖縄、愛知と、県ごとに1社ずつ出てきます。

製麺と合わせて13社を並べ、どういう会社なのかを読みました。

製粉製麺もう無い会社
0100200熊本製粉/熊本県熊本市/売上高 273億円(2021年12月期)熊本製粉273千葉製粉/千葉県千葉市/売上高 193.3億円(年次不明)千葉製粉193奥本製粉/大阪府貝塚市/売上高 157.5億円(年次不明)奥本製粉158菊水/北海道江別市/売上高 91.2億円(2018年3月)菊水91.2徳島製粉/徳島県徳島市/売上高 80億円(年次不明)徳島製粉80.0とりごえ食品/広島県三原市/売上高 48億円(2006年時点)とりごえ食品48.0江別製粉/北海道江別市/売上高 45.9億円(2023年度)江別製粉45.9大陽製粉/福岡県福岡市/売上高 41.7億円(2008年3月期)大陽製粉41.7沖縄製粉/沖縄県那覇市/売上高 36.5億円(2016年3月)沖縄製粉36.5西山製麺/北海道札幌市/売上高 34億円(2021年度)西山製麺34.0石丸製麺/香川県高松市/売上高 27.5億円(2023年9月期)石丸製麺27.5山本製粉/愛知県豊川市/売上高 17億円(年次不明)山本製粉17.0飛竜/岡山県岡山市/売上高 11億円(2006年12月)飛竜11.0億円
製粉8社・製麺5社の売上高(億円)。決算期は社ごとに異なり、年次が記載されていない社もあります。

その土地の麺の粉を、その土地の会社が挽いている

読み始めてすぐに分かったのは、製品欄がその土地の食べ物で埋まっているということでした。

沖縄製粉(那覇市)は沖縄県で唯一の製粉会社です。小麦粉の県内シェアは1位で、サーターアンダギーやちんびんの専用プレミックス粉を作っています。1955年の設立で、1957年にはアメリカ駐日大使のダグラス・マッカーサー2世が工場を視察に来ています。1963年に米軍調達部と契約して軍納入粉の出荷を始め、1964年にはアメリカの小麦連合会からキッチンカーを譲り受け、翌年には県内各地で料理講習会を開いています。そして1972年、沖縄県の本土復帰に伴って軍納粉の生産を廃止し、学校給食用小麦粉の生産を始めました。

大陽製粉(福岡市)の製品欄には、島原手延素麺、五島手延べそうめん、五島手延うどんが並びます。ちなみに社名は「太陽」ではなく点のない「大陽」で、「なにか一つくらい不足していた方が、未来に向かって頑張れる」という初代社長夫人の言葉に由来すると書かれています。

山本製粉(愛知県豊川市)は1916年に豊橋で製粉業を開いた会社で、自社の小麦粉から乾麺と即席麺を作っています。「ポンポコラーメン」は東三河で知られたブランドだそうです。

江別製粉(北海道江別市)は、扱う小麦の約65%が北海道産です。1948年の創業当初は、アメリカなどから食料援助で入ってくる小麦を政府から委託されて挽く会社でした。1970年頃に北海道でも小麦が大量に作られるようになりますが、当時の北海道産小麦は評判がよくなく、外国産に混ぜて使っていたそうです。そこで100%北海道産で評価を取り直すことを始め、「ハルユタカ」の登場でパン用としての評価が変わりました。いま扱う小麦粉は約300種類あります。

石丸製麺(高松市)は1904年創業で、当初は水車で製粉も兼ねていました。戦後まもなく製麺に特化し、讃岐うどん専用に開発された小麦「さぬきの夢2000」をいち早く使っています。

製麺のほうも、生まれ方が土地に貼りついていました。西山製麺(札幌市)は、1947年に西山仙治がラーメン店「だるま軒」を開いたところから始まっています。1953年にその製麺部門を独立させ、1955年に札幌ラーメンの象徴になる縮れ麺を開発しました。現在も札幌市の30%以上のラーメン店がこの麺を使っていると記載があります。

ついでに気づいたのは住所です。江別製粉と、製麺の菊水と、乾麺のマルナカ。3社とも北海道江別市で、しかも菊水とマルナカは同じ工栄町にあります。今治市小浦町や富士市比奈で見たのと同じ、狭い範囲に同業が集まる形でした。

土地と結びついているのは分かりました。では、県境の外へはどう出ているのか。それが書かれている会社が1社ありました。

富山・岐阜・愛知から西

徳島市の徳島製粉は、1943年創業の製粉会社です。1965年から即席ラーメン、1973年からカップ麺を作っています。「金ちゃんヌードル」の会社です。

「金ちゃん」の名は、同社が挽いていた小麦粉の商品名「鳴門金鶴」から来ています。1965年に出した最初の即席ラーメンは「キンツルラーメン」でしたが、同名の商品が他社にあったため改名し、1967年にテレビCMに合わせて短く「金ちゃんラーメン」になりました。包装の鶴のマークは「金鶴」の名残です。

この会社には、公認の販売エリアがあります。

徳島製粉が徳島県に本社を置く企業であることから生じる、営業体制や輸送コストの都合上、徳島製粉の即席めんの公認販売エリアとしては富山県・岐阜県・愛知県以西及び静岡県の西日本

富山、岐阜、愛知から西。線が引かれています。新潟・長野・神奈川から北の東日本と、九州南部ではほとんど流通していないとも書かれています。

そして、本拠地の四国以外で特に売れているのが静岡県と沖縄県の2つで、この2県では四国や近畿、そして静岡以外の東海地方をも上回るシェアだといいます。

同じ会社が、その理由を挙げています。

静岡は、東洋水産や日清食品の工場があり、県民に即席めんを食べる習慣が根付いていたから。

沖縄は、もともと本土のそばやうどんを食べる習慣がなかったところに味付けが合ったから。加えて、カップが熱を伝えにくい二重構造で開閉できる蓋が付いており、畑仕事の合間に食べやすいこと、麺がのびにくいこと。そして「金ちゃんヌードル」が沖縄で発売されたのは1973年で、日清食品のカップヌードルより沖縄への進出が早かったこと。

麺が県境を越えた理由が、味の良し悪しではありませんでした。すでに習慣がある土地(静岡)と、まだ習慣がない土地(沖縄)という、正反対の2つです。埋まっている場所には入れず、空いている場所に入る。線の外に出られるかどうかは、輸送費と、その土地に何が根付いているかで決まっていました。

線を引いているのは、小麦ではない

小麦がほとんど輸入なのに製粉会社が県ごとにあるのはなぜか、という疑問から読み始めました。

答えは、粉のほうではなく食べる側にありました。同じ港に着いた同じ小麦を、その土地の食べ方に合わせて挽き分けているから、その土地に会社が要ります。沖縄製粉がサーターアンダギー専用の粉を作り、石丸製麺が讃岐うどん専用の小麦を使い、西山製麺が札幌ラーメンの縮れ麺を作っているのは、そういうことでした。

そして、線の外へ出られるかどうかも食べる側が決めていました。徳島製粉が沖縄に入れたのは、そこにまだ麺の習慣がなかったからです。粉の行き先が軍から学校給食に変わった1972年の、その翌年でした。

数字と出典

会社所在地売上高(億円)売上の出典従業員1人当たり(万円)設立業種特徴
熊本製粉熊本県熊本市2732021年12月期18015,1671947製粉2023年に日清製粉の連結子会社
千葉製粉千葉県千葉市193.3年次不明18510,4491947製粉化粧品・医薬品素材も
奥本製粉大阪府貝塚市157.5年次不明1888,3781949製粉「スキー」パスタ。昭和産業グループ
菊水北海道江別市91.22018年3月6001,5201963製麺伊藤ハム米久HDの連結子会社
徳島製粉徳島県徳島市80年次不明1306,1541943製粉金ちゃんヌードル
とりごえ食品広島県三原市482006年時点——1962もう無い会社2006年1月に自己破産
江別製粉北海道江別市45.92023年度706,5571948製粉北海道産65%。小麦粉は約300種類
大陽製粉福岡県福岡市41.72008年3月期715,8731943製粉島原手延素麺・五島手延うどん
沖縄製粉沖縄県那覇市36.52016年3月1742,0981955製粉沖縄県で唯一の製粉会社
西山製麺北海道札幌市342021年度1901,7891963製麺札幌ラーメンの縮れ麺
石丸製麺香川県高松市27.52023年9月期1521,8091969製麺1904年創業。讃岐うどんの乾麺
山本製粉愛知県豊川市17年次不明523,2691916製粉ポンポコラーメン
飛竜岡山県岡山市112006年12月701,5711959製麺社名は粉の銘柄から
13社の数字。売上高は企業リストの値で、決算期は各社のWikipedia日本語版の記載に合わせています。

13社は、公的オープンデータから作った企業リストから選びました。各社の沿革・製品・販売エリアの記述は、いずれもWikipedia日本語版の各社の記事に拠ります。一次資料(有価証券報告書・決算公告・各社サイト)では取り直していません。

「日本の小麦はほとんどが輸入」は、この記事では出典を取っていません。 一般に知られている前提として書きました。各社の記述にも、江別製粉が「日本国外産(アメリカ・カナダ)が約35%」、石丸製麺が「これまで外国産小麦一辺倒だった乾麺市場」と書かれている程度です。輸入比率の具体的な数字は確認していません。

1人当たり売上高は、分子と分母の年次がそろっていません。 年次が両方そろっているのは江別製粉(売上2023年度・従業員2023年現在)と飛竜(どちらも2006年12月時点)の2社だけです。山本製粉は売上の年次が不明で従業員が2010年3月1日現在、奥本製粉は売上の年次が不明で従業員が2025年3月末現在です。千葉製粉・徳島製粉・沖縄製粉・大陽製粉・菊水・石丸製麺は従業員数の年次が記載されていません。表の1人当たりは、このずれを含んだ数字です。

とりごえ食品はもうありません。 2006年1月27日に約43億円の負債を抱えて広島地方裁判所に自己破産を申請し、営業を停止しています。企業リストの48億円は2006年時点の数字です。

熊本製粉と奥本製粉は、大手の傘下です。 熊本製粉は2022年6月に日清製粉が発行済株式の85%を取得することで合意し、2023年1月4日に取得、日清製粉の連結子会社になりました。奥本製粉は2009年に昭和産業と資本提携し、そのグループ企業と記載されています。菊水も1995年4月に伊藤ハム(現・伊藤ハム米久ホールディングス)の連結子会社になっています。「地方の独立企業」ばかりではありません。

江別市の3社のうち、乾麺のマルナカ(1933年創業、江別市工栄町5-1)は売上高が企業リストに入っていないため表に含めていません。同名の香川県のスーパーマーケットと取り違えられていた会社でもあります。

「札幌市の30%以上のラーメン店で採用」(西山製麺)と「小麦粉の県内シェア一位」(沖縄製粉)は、Wikipediaの記載をそのまま引いています。 出典元の調査方法は確認していません。

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