宇佐美鉱油は、伊勢湾台風の復興に来たトラックを見て高速道路に出た

  2026年09月19日 00:00

高速道路のサービスエリアで給油すると、「宇佐美」と書かれた看板をよく見ます。給油機のブランドはENEOSだったり出光だったりしますが、その隣にもう一枚、宇佐美の看板が立っています。

企業リストで名前を引くと、株式会社宇佐美鉱油、愛知県津島市、売上高9,726億1,100万円と出ました。非上場の卸売業では上のほうに入ります。1兆円に近い会社ですが、上場していないので株価も決算説明会もなく、名前を知っている人も多くないはずです。

広域チェーン地域の特約店もう無い会社
02,0004,0006,0008,000宇佐美鉱油/愛知県津島市/売上高 9726.1億円(2025年9月期)宇佐美鉱油9,726ENEOSウイング/愛知県名古屋市/売上高 3020億円(2019年3月期)ENEOSウイング3,020新出光/福岡県福岡市/売上高 2323億円(2026年3月期)新出光2,323太陽石油販売/愛媛県松山市/売上高 565億円(2017年3月期)太陽石油販売565沖縄出光/沖縄県那覇市/売上高 467億円(2022年度)沖縄出光467野口鉱油/山形県天童市/売上高 275億円(年次不明)野口鉱油275高山石油/山口県下松市/売上高 160億円(年次不明(グループ))高山石油160柿本石油/青森県青森市/売上高 152億円(2008年7月期)柿本石油152富士鉱油/山形県山形市/売上高 110億円(2021年7月)富士鉱油110億円
ガソリンスタンドを運営する9社の売上高(億円)。決算期は社ごとに異なります。高山石油の160億円はグループ全体の数字です。

看板は元売のもので、店は別の会社が持っている

まず仕組みから確かめました。

ガソリンスタンドに掲げられているENEOS、apollostation、コスモ石油といった看板は、元売会社のブランドです。店そのものを持って運営しているのは、元売と特約店契約やフランチャイズ契約を結んだ別の会社です。

宇佐美鉱油はグループの統括会社で、実際に石油小売店を運営しているのは子会社の東日本宇佐美と西日本宇佐美です。しかも複数の元売会社と契約しているため、スタンドによって掲げているブランドが違います。だから宇佐美の看板を別に掲げているわけです。

同じ形の会社を9社まで拾いました。出自を読んでいくと、そろって石油以外から来ていました。

高山石油(山口県下松市)は1897年、高山卯三郎が山口県光市の島田駅前で呉服・雑貨商「高山商店」として創業しています。山陽鉄道が開通したのと同じ時期です。1913年に宝田石油と特約契約を結んで石油の販売を始め、1948年に高山商店の石油部を分離して高山石油店になりました。駅前の雑貨屋が石油に移っています。

太陽石油販売(愛媛県松山市)は、もっとはっきりしています。1970年2月、太陽石油の魚市場事業が分社化されて「太陽魚市場販売株式会社」として設立された会社です。石油販売に参入したのは5年後の1975年で、社名から魚市場が消えたのもこのときでした。魚市場の事業自体は2002年に別会社へ分社化されています。

新出光(福岡市)の創業者・出光弘は、出光興産の創業者である出光佐三の兄弟です。それでいて長らく資本関係がありませんでした。2005年10月、出光興産が520億円の第三者割当増資をしたときに新出光が3億円出資し、そこで初めて資本の関係ができています。

そして、リストに残っているだけの会社もありました。柿本石油(青森市)の152億円は2008年7月期の数字です。同社は2008年10月5日に事業を停止し、翌6日に全てのガソリンスタンドが何の説明もないまま一斉に休業しました。元売への2008年6・7月分の支払い約10億円を滞納しており、9月5日に特約店契約が打ち切られていました。2009年3月26日に破産手続開始が決定し、負債総額は102億8,390万円です。

雑多な出自の会社が並ぶなかで、宇佐美鉱油だけは立地に強い偏りがありました。

1959年9月26日

宇佐美のスタンドは、高速道路のサービスエリア、バイパス、主要国道、インターチェンジを中心に置かれています。運送会社との大口契約が多く、長距離トラックの給油が多いと記されています。2013年2月の時点で、香川県・高知県・沖縄県を除く44都道府県にありました。

町なかの住宅地ではなく、長距離の車が通る場所に寄っています。なぜそうなったのかが、沿革の1行に書かれていました。

1959年(昭和34年)、創業者の宇佐美史郎が、伊勢湾台風後の災害復興にかけつけた多くのトラックを見た事が、長距離トラックを対象としたチェーン展開を閃く契機となった。

伊勢湾台風は1959年9月26日に潮岬へ上陸し、紀伊半島から東海地方を中心に被害を出した台風です。犠牲者は5,098人(死者4,697人、行方不明者401人)。うち愛知県だけで3,351人が亡くなっています。被災者は全国で約153万人、愛知県では約79万人で、県の全人口の約2割が被災しました。明治以降の日本の台風災害では最悪の被害です。

この規模の災害の復旧に、全国からトラックが入ってきます。宇佐美鉱油は1950年に愛知県津島市で創業した石油店でした。創業者はその往来を見て、給油する相手を町の車から、通り過ぎるトラックへ切り替えることを決めています。

以後の沿革は、地域名を冠した会社を順に作っていく記録です。1967年に山陽宇佐美、1973年に九州宇佐美と東北宇佐美、1986年に東京宇佐美と関東宇佐美、1990年に北海道宇佐美、1993年に関西宇佐美、1997年に北陸宇佐美、2002年に上信越宇佐美。2005年にこの11社を東日本宇佐美と西日本宇佐美の2社へ統合しました。

1959年から2002年まで、43年かけて地域ごとの会社を作り足しています。

給油する相手を、通り過ぎる車に変えた

高速道路のサービスエリアで宇佐美の看板を見るのは、そこに需要があるからだと思っていました。順序が逆でした。

1959年に台風の後の道路を見ていた人が、通り過ぎる車を相手にすると決め、そのための立地を46年かけて押さえていった結果が、いま見えている看板です。給油機のブランドが店ごとに違うのも、同じ判断から来ています。長距離トラックが求めるのは道沿いにあることで、どの元売の油かではないからです。1959年9月の台風のあとに決めたことが、いまも道の形で残っています。

数字と出典

会社所在地売上高(億円)売上の出典従業員1人当たり(万円)設立型特徴
宇佐美鉱油愛知県津島市9,726.12025年9月期3,00032,4201958広域チェーン高速道路SA・国道。44都道府県
ENEOSウイング愛知県名古屋市3,0202019年3月期1,85016,3241951広域チェーン旧「Ikko」。2013年にENEOS傘下
新出光福岡県福岡市2,3232026年3月期37961,2931950広域チェーンIDEX。九州中心に約600か所
太陽石油販売愛媛県松山市5652017年3月期25322,3321970地域の特約店SOLATO。元は魚市場の会社
沖縄出光沖縄県那覇市4672022年度9051,8892009地域の特約店沖縄県内
野口鉱油山形県天童市275年次不明9828,0611957地域の特約店ENEOS特約店。山形・宮城
高山石油山口県下松市160年次不明(グループ)3854,1561948地域の特約店1897年に呉服・雑貨商として創業
柿本石油青森県青森市1522008年7月期10015,2001972もう無い会社2009年3月に破産
富士鉱油山形県山形市1102021年7月1338,2711951地域の特約店山形・秋田・宮城・東京
9社の数字。売上高は企業リストの値で、決算期は各社のWikipedia日本語版の記載に合わせています。

9社は、公的オープンデータから作った企業リストから選びました。各社の沿革・出自・立地の記述は、いずれもWikipedia日本語版の各社の記事に拠ります。一次資料(有価証券報告書・決算公告・各社サイト)では取り直していません。

伊勢湾台風の犠牲者数・被災者数(犠牲者5,098人、愛知県3,351人、被災者約153万人、愛知県約79万人で県全人口の約2割)は、Wikipedia日本語版「伊勢湾台風」が引く「消防白書」平成20年度版の全国被害状況集計の数字です。

1人当たり売上高は、分子と分母の年次がそろっていません。 宇佐美鉱油は売上が2025年9月期で従業員が2019年度の連結3,000名、新出光は売上が2026年3月期で従業員が2018年3月31日現在の379名です。野口鉱油・高山石油・富士鉱油・柿本石油・太陽石油販売の5社は従業員数の年次が記載されていません。表の1人当たりは、このずれを含んだ数字です。

高山石油の160億円と385人は、どちらもグループ全体の数字です。同社単独では売上102億円・45人と記載があります。企業リストに入っているのはグループのほうなので、表もそれに合わせました。ガソリンスタンドの運営は主にグループ会社の高山エネルギー(山口県中部・東部で12か所)が担っています。

宇佐美鉱油の本社所在地は、登記上の津島市にしています。 Wikipediaには「本社機能は名古屋」という趣旨の記載があり、2006年に本社事務所を津島市から名古屋市へ移したとも書かれています。企業リストの住所は津島市なので、表もそれに合わせました。

小倉興産エネルギー(1,098億円)は入れていません。 企業リストでは福岡県の会社ですが、Wikipediaでは本社が東京都千代田区で、伊藤忠エネクスの100%子会社と記載されています。登記上の本店と実際の本社が違うと思われ、このブログが対象にしている地方の会社に当たるか判断がつかなかったためです。

「設立」は法人としての設立年です。 宇佐美鉱油の1958年は有限会社宇佐美鉱油店への改組で、創業は1950年、株式会社への改組は1979年です。高山石油の1948年は高山商店から石油部を分離した年で、商店としての創業は1897年です。太陽石油販売の1970年は「太陽魚市場販売株式会社」としての設立年です。

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