瀬野汽船は陸で働くのが28人、船に乗るのが約1,500人

  2026年09月23日 00:01

企業リストで海運業を引くと、非上場で本社が東京にない会社が42社ありました。売上高を従業員数で割って並べたら、上位3社が全部愛媛県でした。

  • 瀬野汽船 380億円 ÷ 25人 = 1人あたり15.2億円
  • 日鮮海運 260億円 ÷ 20人 = 1人あたり13.0億円
  • 愛媛海運 48億円 ÷ 4人 = 1人あたり12.0億円
船主造船グループメーカー系
050,000100,000150,000瀬野汽船/売上高 380億円 ÷ 従業員 25名瀬野汽船152,000愛媛海運/売上高 48億円 ÷ 従業員 4名愛媛海運120,000神原汽船/売上高 620億円 ÷ 従業員 59名神原汽船105,085正栄汽船/売上高 257億円 ÷ 従業員 46名正栄汽船55,870大王海運/売上高 322億円 ÷ 従業員 140名大王海運23,000万円
海運会社の1人当たり売上高(億円)。従業員数は企業リストの値です。

製造業でこの数字は出ません。何をしている会社なのか調べたら、船を運航していませんでした。

船を持って、貸す

瀬野汽船は今治市郷栄町の会社です。1954年に設立され、1956年には愛媛県で最初の外航船を建造しています。事業は船舶貸渡業。船を持ち、それを運航会社に貸します。

同社が共有するRO-RO船「しゅり」は東京・大阪・那覇を結んでいますが、運航しているのは近海郵船ロジスティクスです。船は瀬野汽船のもので、動かすのは別の会社という形です。

従業員の内訳を見ると、この数字の理由が分かります。陸上の従業員は28人。これとは別に、外国人船員が約1,500人います。企業リストの「25人」は陸で働く人の数で、船の上にいる人は入っていません。

正栄汽船も同じです。今治市の会社で、設立は1962年。日本郵船や商船三井といった大手に船を貸しています。2024年度の売上高は257億円、純利益89億6,000万円、総資産1,796億円に対して、従業員は46人です。

愛媛海運は松山市三津の会社で、創立は1949年11月7日。11隻を保有し、川崎汽船などに用船しています。

売上高が大きく、人が少ない。船という資産を持って貸す商売なので、陸の事務所に多くの人は要りません。

今治に約1,100隻

なぜ愛媛なのか。今治市が公表している数字がありました。

項目数値
市内の船主が保有する外航船約1,100隻
国内の外航船総数3,663隻
国内に占める割合約30%
市内の造船事業所14ヶ所(全国一)
建造隻数の国内シェア約18%(市内本社の企業グループ全体では約35%)

日本の外航船の3隻に1隻近くが、今治の船主のものです。この集積は北欧・香港・ピレウス(ギリシャ)と並ぶ規模とされ、「愛媛船主」「今治オーナー」と呼ばれます。

船を造る会社と、船を持つ会社が、同じ土地にいます。正栄汽船は今治造船の子会社です。今治造船が建造した船を、正栄汽船が持って貸す。広島県福山市の神原汽船も同じ形で、常石ホールディングスの傘下にあり、約50隻の外航船の多くを姉妹会社の常石造船が造っています。

学生服を調べたとき、岡山県児島に3社が集まっている理由は「厚手の布を織って縫う土地だったから」でした。今治は「船を造る土地」であり、そこに「船を持つ会社」が積み上がっています。

スエズ運河を塞いだ船の持ち主

正栄汽船の名前は、2021年3月に世界中で報じられました。スエズ運河で座礁して航路を塞いだコンテナ船「エバーギブン」の船主が、この会社です。

運航していたのは台湾のエバーグリーン。船を持っていたのは、今治市の従業員46人の会社でした。海運のニュースで表に出るのは運航会社の名前ですが、船そのものの持ち主は別にいます。

例外は、紙の会社の船だった

愛媛10社のうち、大王海運だけは形が違いました。

四国本社は愛媛県四国中央市三島紙屋町。設立は1985年11月1日で、大手製紙メーカー大王製紙の関連会社です。外航・内航の海上運送に加え、港湾運送、通関、倉庫、自動車運送まで手がけています。従業員140人で売上322億円ですから、1人当たりは2.3億円。船主3社とは桁が違います。

面白いのは資本の向きです。大王海運は、大王製紙の株式の5.7%を持つ大株主でもあります(2024年3月31日現在)。子会社が親会社の大株主になっている形で、紙を運ぶために作られた船会社が、紙の会社の株を持っています。

紙のまちを調べたときに見た四国中央市が、ここでも出てきました。紙を作る町には、紙を運ぶ船会社があります。

数字と出典

会社所在地売上高(億円)売上の出典従業員1人当たり(万円)創業・設立区分事業の形
神原汽船広島県福山市6202025年度59105,0851903造船グループ常石ホールディングス傘下。約50隻
瀬野汽船愛媛県今治市380企業リスト(2023年)25152,0001954船主船舶貸渡業。陸上28人・外国人船員約1,500人
大王海運愛媛県四国中央市322企業リスト(年次なし)14023,0001985メーカー系大王製紙の関連会社にして大株主
正栄汽船愛媛県今治市2572024年度4655,8701962船主今治造船の子会社。Ever Givenの船主
愛媛海運愛媛県松山市48企業リスト(2019年)4120,0001949船主11隻を保有し川崎汽船などへ用船
5社の数字。売上高と従業員数は出所がそろっていません(下記参照)。

42社は、公的オープンデータから作った企業リストの「非上場・本社が東京以外」で海運業を絞ったものです。1人当たり売上高は、リストの売上高をリストの従業員数で割っただけの値です。

この1人当たりの数字は、実態を表していません。船員が従業員数に入っていないからです。瀬野汽船は陸上28人に対して外国人船員が約1,500人いるので、船員を含めれば1人当たりは0.25億円になります。船を持つ会社と、船に人を乗せる会社が分かれているため、リストの従業員数だけを見ると、どの船主も極端に少人数に見えます。

売上高と従業員数の年次がそろっていません。瀬野汽船の380億円は企業リストの2023年の値、正栄汽船の257億円は2024年度、神原汽船の620億円は2025年度、愛媛海運の48億円はリストの2019年の値、大王海運の322億円はリストの値で年次の記載がありません。

従業員数はリストと実際が食い違います。愛媛海運はリストでは4人ですが、会社の公表は17名です。瀬野汽船はリストで25人、公表は陸上28名。リストの数値をそのまま人数として読まないほうがよい、ということです。

今治の数値は今治市(海事都市今治推進課)の公表値で、2021年度実績とされています。約1,100隻・国内外航船3,663隻・約30%・造船事業所14ヶ所・建造隻数シェア約18%(市内本社の企業グループ全体で約35%)は、いずれも同市のページの記載です。「愛媛船主が日本の外航船の3割超」という数字は日本経済新聞の記事(2018年)でも報じられています。

「創業・設立」の列も、行によって意味が違います。設立年を入れたのは瀬野汽船(1954年)、正栄汽船(1962年)、大王海運(1985年11月1日)の3社。愛媛海運の1949年11月7日は創立、神原汽船の1903年は創業者の神原勝太郎が石炭輸送を始めた創業年で、会社としての設立年は別にあります。神原汽船は2007年に常石造船と合併したのち、2011年に海運会社として再編されています。

各社の沿革・事業内容・株主に関する記述の出所は次のとおりです。正栄汽船・神原汽船・大王海運はWikipedia日本語版の各記事、瀬野汽船と愛媛海運は各社サイトおよび求人媒体に掲載された会社概要です。有価証券報告書や決算公告では取り直していません。

「日鮮海運」は本文で数字だけを挙げ、表には入れていません。設立年や事業内容を確認できる出典が見つからなかったためです。企業リスト上は260億円・20人(2019年)です。

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