2026年09月21日 00:00
企業リストを小売業で並べていると、県名や地名の付いた自動車販売会社が次々に出てきます。
ウエインズトヨタ神奈川3,133億円、大阪トヨペット2,297億円、NTP名古屋トヨペット1,922億円、愛知トヨタ自動車1,446億円、日産プリンス神奈川販売1,439億円。全部、非上場です。
同じメーカーの車を売っているのに、社名がそろっていません。「○○トヨタ自動車」もあれば「○○トヨペット」も「ネッツトヨタ○○」もあり、大阪には大阪トヨタ自動車と大阪トヨペットが別会社として並んでいます。
読み始めてまず目についたのは、最近の統合でした。
トヨタは長く、販売チャネルを分けていました。トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店。売る車種がチャネルごとに違い、同じ県に4つの別会社があるのが普通でした。
2020年5月(東京は2019年4月)に全車種の併売が始まり、チャネル制度は事実上なくなります。ここから統合が続きました。
| 年 | 統合 |
|---|---|
| 2019年4月 | トヨタモビリティ東京が都内4社を統合(道府県に先駆けて) |
| 2020年7月 | 静岡トヨタ自動車がネッツトヨタ浜松を吸収 |
| 2021年5月 | 宮城トヨタ自動車がネッツトヨタ宮城を吸収 |
| 2023年1月 | 横浜トヨペット・トヨタカローラ神奈川・ネッツトヨタ神奈川が統合しウエインズトヨタ神奈川が発足 |
| 2023年4月 | 宮城トヨタ自動車がトヨタカローラ宮城を吸収 |
| 2023年5月 | 愛知トヨタ自動車がトヨタカローラ愛豊・ネッツトヨタ愛知・ネッツトヨタ東海を統合 |
| 2025年4月 | トヨタカローラ札幌・札幌トヨペット・ネッツトヨタ函館が統合しAGHトヨタ札幌が発足 |
県の中が1社になっていく動きです。
では、なぜ最初は分かれていたのか。愛知トヨタ自動車の沿革に、そこが書いてありました。
愛知トヨタ自動車の前身は「日の出モータース」という会社です。この会社は、日本ゼネラル・モータース(日本GM)の愛知県総代理店でした。
豊田自動織機製作所の自動車部が本格的に自動車を作り始めたころ、日本GMを退職して1935年10月に豊田自動織機製作所へ入社した神谷正太郎が、豊田喜一郎から販売網の拡大を任されていました。神谷は全国の販売網を考えるなかで、GM時代に懇意にしていた山口昇が支配人を務める日の出モータースに、トヨタ車の販売代理店への転向を打診します。
山口はこれを承諾し、同年11月にGM系車種の販売権を返上して、豊田自動織機専属の代理店になりました。トヨタ店の第1号です。
トヨタの最初の販売店は、GMの店でした。
話はここで終わりません。同社はのちに「名古屋トヨタ販売」となりますが、1942年11月、こういうことが起きます。
「自動車販売は1県1社を原則とする」戦時統制で、日産自動車販売名古屋支店など愛知県内の自動車販売会社と合併して「愛知縣自動車配給」を設立する。これを現在の会社の発足としている。
トヨタと日産の販売会社が、戦時中に1つに合併させられていました。そして愛知トヨタは、そのメーカーをまたいだ配給会社のほうを、自社の発足としています。
戦後、配給制度が廃止されると、1946年9月にトヨタ自動車工業と契約してトヨタのディーラーとして営業を再開し、社名を「愛知トヨタ販売」、1948年に「愛知トヨタ自動車」としました。
そして同じ1946年、トヨタは全国で同じことをしています。
第二次世界大戦後すぐに自社販売網の再構築を目指したトヨタ自動車工業が、1946年秋までに46都道府県毎に1社ずつ(北海道は札幌と旭川の2社)、各地の有力地場資本と提携し整えた
メーカーの子会社を各県に置いたのではなく、各県の有力な地場資本と組んでいます。大阪トヨタ自動車の設立が1927年3月19日(豊国自動車株式会社)と、トヨタ自動車工業の設立(1937年)より10年早いのも、そのためです。会社が先にあって、あとからトヨタと組んでいます。
県ごとに自動車販売会社が分かれているのは、メーカーが県ごとに支店を置いたからではありませんでした。
1942年に「1県1社」で配給会社にまとめられ、1946年に各県の地場資本と1社ずつ組み直し、そこからチャネルが分派して県内に4社になり、2020年代にまた県内で1社にまとまりつつあります。
1942年の「1県1社」はメーカーをまたぐ配給の仕組みで、いま起きているのはトヨタの中での1社化ですから、中身は違います。ただ、分けたりまとめたりする単位が「県」であることだけは、1942年から80年余り変わっていません。
地方私鉄を調べたとき、鉄道会社が自動車販売を手がけていることに引っかかりました。あれも、1946年に各県で組む相手を探していた側と、その県で有力だった側が出会った跡なのだと思います。
| 会社 | 所在地 | 売上高(億円) | 売上の出典 | 従業員 | 1人当たり(万円) | 設立 | 系列 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ウエインズトヨタ神奈川 | 神奈川県横浜市 | 3,133.9 | 2026年3月期 | 3,902 | 8,032 | 2023 | トヨタ系 | 2023年に県内3社を統合 |
| 大阪トヨペット | 大阪府大阪市 | 2,297.3 | 2026年3月期 | — | — | 1946 | トヨタ系 | 旧・大阪トヨタ自動車として設立 |
| NTP名古屋トヨペット | 愛知県名古屋市 | 1,922.4 | 2025年3月期 | 2,693 | 7,139 | 1956 | トヨタ系 | 旧・名豊自動車 |
| 愛知トヨタ自動車 | 愛知県名古屋市 | 1,446.4 | 2022年3月期 | 2,016 | 7,175 | 1942 | トヨタ系 | トヨタ店の第1号。前身は日本GM代理店 |
| 日産プリンス神奈川販売 | 神奈川県横浜市 | 1,439.5 | 2025年3月期 | 1,439 | 10,003 | 2006 | 日産系 | 日産系 |
| ホンダモビリティ九州 | 福岡県福岡市 | 1,253.6 | 2026年3月期 | 2,327 | 5,387 | 1985 | ホンダ系 | ホンダ系 |
| 日産大阪販売 | 大阪府大阪市 | 995 | 2020年度 | 2,287 | 4,351 | 2006 | 日産系 | 日産系 |
| 神戸トヨペット | 兵庫県神戸市 | 875.5 | 2025年3月期 | 1,010 | 8,668 | 1956 | トヨタ系 | トヨペット店系 |
| 大阪トヨタ自動車 | 大阪府大阪市 | 859.8 | 2020年3月期 | 1,153 | 7,457 | 1927 | トヨタ系 | 前身は1927年の豊国自動車 |
| 静岡トヨタ自動車 | 静岡県静岡市 | 826.8 | 2026年3月期 | 1,438 | 5,750 | 1946 | トヨタ系 | 2020年にネッツトヨタ浜松を吸収 |
| 宮城トヨタ自動車 | 宮城県仙台市 | 588 | 2025年3月期 | 671 | 8,763 | 1946 | トヨタ系 | 2021年・2023年に県内2社を吸収 |
11社は、公的オープンデータから作った企業リストから選びました。各社の沿革・統合の経緯、トヨタ店の成り立ちに関する記述は、いずれもWikipedia日本語版の各記事(各社および「トヨタ店」)に拠ります。一次資料(有価証券報告書・決算公告・各社サイト・社史)では取り直していません。
売上高の比較はできません。 決算期が2020年3月期から2026年3月期までばらけているうえ、この期間に統合が起きているためです。愛知トヨタ自動車の1,446億円は2022年3月期で、2023年5月にトヨタカローラ愛豊・ネッツトヨタ愛知・ネッツトヨタ東海を統合する前の数字です。ウエインズトヨタ神奈川の3,133億円は2026年3月期で、2023年1月の3社統合の後の数字です。「神奈川のほうが愛知より大きい」という読み方はできません。
1人当たり売上高も年次がそろっていません。 愛知トヨタ自動車は売上が2022年3月期で従業員が2018年3月現在、大阪トヨタ自動車は売上が2020年3月期で従業員が2023年4月1日現在です。大阪トヨペットは従業員数の記載がありません。
「設立」の意味が社によって違います。 愛知トヨタ自動車の1942年は、同社が「現在の会社の発足」としている愛知縣自動車配給の設立年です(infoboxには2006年12月13日という別の日付もあり、法人としての設立はそちらと思われます)。ウエインズトヨタ神奈川の2023年は3社統合による発足年で、母体の横浜トヨペットは1956年3月の設立です。日産プリンス神奈川販売と日産大阪販売の2006年も、再編による設立年です。
トヨタカローラ札幌は入れていません。 企業リストでは964億円(2026年)ですが、Wikipediaの記載は371億円(2021年度実績)で、桁が合いません。どちらが正しいか確かめられなかったため外しました。同社は2025年4月1日に札幌トヨペット・ネッツトヨタ函館と統合してAGHトヨタ札幌になっています。
神谷正太郎と日の出モータースの経緯は、Wikipedia日本語版「愛知トヨタ自動車」の記載に拠ります。トヨタ自動車側の社史では確認していません。
Share Me!